NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

夜なき梟

簡単に夜を越えられるのなら、いつだってそうした。簡単にあちら側へ行けるのなら、同じようにそうした。いつの日かその手段が開発されたのなら、嬉々として迎えに行く。今まで文章の中で愛でてきたすべてを裏切って。今まで育ててきた哲学に墨を塗って。 私…

まとめ(13)

・お茶でもいかが? - NIGHT SCRAPS 今週、やっとお茶できます。どんなこと話そうって考えると楽しいです。冷たいコーヒーがぬるくなるまで、話が盛り上がったら嬉しい。相手との共通の がどれくらいあるのか分からないんだけど、その違いもまた にしてみた…

クラシック

何もない日だと思っていた。夏の残り香がする、湿っていて暑い日。病院で薬をもらってから、微かに汗をかきながらだらだら歩いていた。頭上には、不気味なくらい大きな雨雲。黒々としたそれが町に蓋をしていた。道の途中で出会ったモコモコ毛並の猫は、縄張…

蝶々

蝶々結びがほどけて立ち止まる。靴紐が長いせいか、どれだけ強く結んだつもりでもすぐにほどけてしまう。しゃがみこむと、コンクリートを渡るアリと目が合う。そしてまた歩きはじめる。 春や秋の風が好きだ。散歩する犬も日向ぼっこする猫も、それから洗濯物…

恋しくて

甘美なまどろみに似た時間。そのぼんやりとした気配の中で、いくつかの思い出を拾い集めることができる。スマホのフォルダからすべて消えても、今のところはまだ、油よごれみたいにしぶとく残っている。春へと移り変わる前の、頬を突く冷たい風。駅前で待ち…

お茶でもいかが?

すてきな人とお茶の約束をした。ちょっとフシギな気分だ。僕の方からお誘いしたのだけど、まさか自分がこんなことする日が来るなんて思っていなかった。向こうは人気者で、恋人がいて、いろいろ忙しそうな人だ。ここ数日ずっと、その人と喫茶店で楽しくお茶…

まとめ(12)

・健やかなる - NIGHT SCRAPS 健康について書きましたが、久しぶりに気持ちいい文章が書けたような気がします。本当にクソな今の状況を、具体的にどういう部分が「クソ」なのかは挙げきれないので挙げず、それとなく、淡々と文章にしました。あまりに多くの…

祝祭

きれいじゃないけど晴れた空を見ていた。雲のクリームが溶けて混じった淡い青色。風を鼻から吸いこんで、少しだけ吐き出した。授業がいつもより早く終わったから、浮れた気持ちで自転車を走らせて、今月号の雑誌を買いに行くことにした。のんきな午後だ。 狭…

猫にならう

甘い声がする。夜、みんなが寝静まった頃に外の方から聞こえてくる。ベランダに出て覗いてみたって多分なにも分かりはしない。かと言ってこんな時間に、甘い声の主を探すためだけに外へ出るのもなんだか恥ずかしい。だらしない恰好で明かり片手にうろうろし…

ライラックの子

君から「大丈夫?」と聞かれ、苦しくなった。本当ならもう人間にならないといけない頃合いだけど、中途半端な動物のまま、思い出を見ていた。カビ臭い風を吸いこんで町へ出る。得意のまじないで自分を偽って、知らない人の隙間を縫った。苦しい夜ばかりで誰…

可愛いね

ごめんなさい。周りから浮いている人を見ると嬉しくなる。ちょっとした宝石を発見したような気持ちになってしまう。普通の定義はいろいろあるにしても、普通じゃないオーラはあちこちで香っていて、その色がするたびに心が躍る。本人が気づいていても気づい…

ルナ

夜を雇う。お金がないから、いつも退屈な夜がやって来る。だんだん感覚が麻痺し始めて、そんなことにも慣れてくる。そして僕自身が退屈になっていく。だけどときどき幸運が訪れて、特別な夜を連れて来ることができる。どれだけ普通の服を着ていても、はっき…

パーマネント恋

頸の匂い、鎖骨のあいだの窪地、心地いい枕。窓から漏れてきた昼の光で、頬が桃の薄皮みたいに見える。僕は猫の視線で、その一つ一つを点検する。少しばかり傷んだ髪の毛も、唇のすぐ近くにあるほくろも、早くなった心拍数も。町の音がぼんやりと聞こえる。…

骨の芯まで

刺すほどの冷たさ。それがずうっと心から離れなかった。だけど僕を乗せたバスがトンネルを抜け、次々と車を追い越していくのに合わせて強引に引き剥がされてしまった。熱い。氷のようなそれがくっついていたところが、ひりひりと痛んでいる。そして今度はこ…

リンゴとアルコール

二日酔いで目覚める。自分のことなど忘れて、馴れない体験にうつつを抜かしたせいだ。大して強いものを飲んだつもりはないけど。何かが吐き出されようと懸命に主張しながら、胸のあたりで引っかかってしまっている。それが余計に気持ち悪い。カーテンを開け…

まとめ(11)

・夜のはらいそ - NIGHT SCRAPS 「はらいそ」というのは、パラダイス、楽園といった意味です。だんだんと人々が寝静まる頃、ほろよいの方々が楽しくお喋りしている様子は、どこか楽園のように思えます。一方で、かんたんな格好で気兼ねなく過ごすのもまた好…

頭の中でハリネズミが暴れている。あるいは、バラの棘がちくちくと絡みついている。とにかく頭が痛い。部屋の明かりが目に刺さる。些細な音が耳を突く。誰かに「湯船に浸かるといい」と言われたけど、効果が見られたことはたぶん一度もない。結局一番効くの…

潮汐(Tide)

夢のくぐり方を間違えた。まだ空も白んでいない、早い時刻に目覚めてしまった。起き抜けのぼんやりした頭。布団の上のナマケモノ。薄暗い中で、枕元のペットボトルに手を伸ばす。唇のすき間から、そして汗腺から逃げていった水分を補いたい。日照りの町が雨…

ゆふれゐ

本屋。興味のある雑誌を手に取って紙を捲っていると、後ろに人の気配を感じる。見えないけれど確かにいて、見えないゆえに気になってしまう。雑誌の内容が頭に入らない。捲る手を止め、本を閉じる。それを元の場所に戻すと、さささと去る。妙に身体が重い。…

健やかなる

いつの間にか、凝った料理を見ると「誰が作るんだろう」と思うようになってしまった。入念な下ごしらえ、丁寧な調理。そもそもこれだけの食材と調味料を用意するのにいくらかかっているんだろう。余計なことばかり気になって料理がおいしいのかはどうでもよ…

やがて冬が

夜がだんだん早く来る。この窓から見える山の色も、近いうちに移ろいゆくはず。人々が身にまとうものも変化しはじめて、または新しい季節へ歩みだす。次の月へ、次の年へ。そして切ない鐘の音が鳴る。何も変わらぬまま、しかし沢山のことが変わってしまった…

沈黙は優しい

虫の音が気持ちいい。秋の予感がする。明るいような、さみしいような音色。夜になっても、町のどこかで生活の音がすると安心する。いろんな音、涼しい風が網戸から入りこんできて、僕の耳や素足に絡みつく。甘くふくらんだ夜の空気。僕はあくびをする。もう…

KIDS

家族三人で近所の道を歩く。夏の夕方、特別今日は涼しくて快い。鼠色の空からぱらぱらと小雨も降っていた。歩道橋を渡り、目当ての洋食屋に着くと、僕らは腰を下ろした。外で晩ご飯を食べるのなんて珍しい気がする。僕はオムライスを注文した。ふわふわの卵…

再上映

親がもう寝静まって、町全体も眠りについた。本当なら、僕もそういう状態でいなければならないのだろうけど、まだ目が冴えている。部屋の壁に備え付けられている、火災報知器が黄緑色の光を放っている。乱視の目でそれをぼうっと眺めていた。右へ左へと身体…

祭よ

暑いのに。肌が汗ばむ季節なのに。人はわざわざ町へ繰り出して群れをなす。その濁流はとても強大で、引き返すことは簡単じゃない。肩と肩がぶつかる。他人の湿った肌が触れる。さまざまな匂い入り乱れて、熱気がたちこめる。それでも人々は騒がしさの方へ誘…

刺青 / TATTOO

夏は容赦ない。刀を鞘から抜き、せっせと刃を研いでいる。そして歩く人々に向かって一気に刀を振り下ろす。僕の肌は無茶苦茶に傷ついて、傷口から透明な血があふれ出す。からだ中から水分が逃げていく。拭うハンカチは汚れていく。視線はどうしても涼しい場…

四畳半夜話

君と電話をしていて、いつの間にか眠りに落ちてしまうあの夜が愛おしい。いつまでも、こうやって夜を無駄にしてしまいたいと思う。言葉を交わして、頷いて、星の光がまた一つ消える。布団はどんどん柔らかくなって、淋しい人みたいに僕の身体をきつく抱きし…

黒い点が壁をするする伝っているのに気がついて、点がじっと落ち着いたところに近づいて軽く息を吹きかけてみる。僕の悪戯にその子は驚いて、焦った様子で壁をぴょんぴょん跳ねていく。その子のことはよく知らない。勝手にやって来て、いつの間にかどこかへ…

ここは水際

またいつものように、騒がしい雨音のあとに新しい季節が来た。その日は雷鳴もしていたかも知れない、もしかしたら。雨音が部屋に浸みこんでくる。それを聞きながら、いろいろと面倒なことをパソコンで整理していた。風の方もすごいから、ベランダに干してい…

夜のはらいそ

晩御飯を早く済ませ、シャワーを軽く浴びて、あとはだらしない恰好で適当に夜を過ごす。ごくごく普通だけど、なんて気持ちがいいんだろうと思う。ベッドに寝そべり、アイスコーヒーをからんからんと愛で、テレビでも観るといい。ときどき難しいことを考えて…