NIGHT SCRAPS

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2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

やがて冬が

夜がだんだん早く来る。この窓から見える山の色も、近いうちに移ろいゆくはず。人々が身にまとうものも変化しはじめて、または新しい季節へ歩みだす。次の月へ、次の年へ。そして切ない鐘の音が鳴る。何も変わらぬまま、しかし沢山のことが変わってしまった…

沈黙は優しい

虫の音が気持ちいい。秋の予感がする。明るいような、さみしいような音色。夜になっても、町のどこかで生活の音がすると安心する。いろんな音、涼しい風が網戸から入りこんできて、僕の耳や素足に絡みつく。甘くふくらんだ夜の空気。僕はあくびをする。もう…

KIDS

家族三人で近所の道を歩く。夏の夕方、特別今日は涼しくて快い。鼠色の空からぱらぱらと小雨も降っていた。歩道橋を渡り、目当ての洋食屋に着くと、僕らは腰を下ろした。外で晩ご飯を食べるのなんて珍しい気がする。僕はオムライスを注文した。ふわふわの卵…

再上映

親がもう寝静まって、町全体も眠りについた。本当なら、僕もそういう状態でいなければならないのだろうけど、まだ目が冴えている。部屋の壁に備え付けられている、火災報知器が黄緑色の光を放っている。乱視の目でそれをぼうっと眺めていた。右へ左へと身体…

祭よ

暑いのに。肌が汗ばむ季節なのに。人はわざわざ町へ繰り出して群れをなす。その濁流はとても強大で、引き返すことは簡単じゃない。肩と肩がぶつかる。他人の湿った肌が触れる。さまざまな匂い入り乱れて、熱気がたちこめる。それでも人々は騒がしさの方へ誘…

刺青 / TATTOO

夏は容赦ない。刀を鞘から抜き、せっせと刃を研いでいる。そして歩く人々に向かって一気に刀を振り下ろす。僕の肌は無茶苦茶に傷ついて、傷口から透明な血があふれ出す。からだ中から水分が逃げていく。拭うハンカチは汚れていく。視線はどうしても涼しい場…

四畳半夜話

君と電話をしていて、いつの間にか眠りに落ちてしまうあの夜が愛おしい。いつまでも、こうやって夜を無駄にしてしまいたいと思う。言葉を交わして、頷いて、星の光がまた一つ消える。布団はどんどん柔らかくなって、淋しい人みたいに僕の身体をきつく抱きし…

黒い点が壁をするする伝っているのに気がついて、点がじっと落ち着いたところに近づいて軽く息を吹きかけてみる。僕の悪戯にその子は驚いて、焦った様子で壁をぴょんぴょん跳ねていく。その子のことはよく知らない。勝手にやって来て、いつの間にかどこかへ…