パーマネント恋

 頸の匂い、鎖骨のあいだの窪地、心地いい枕。窓から漏れてきた昼の光で、頬が桃の薄皮みたいに見える。僕は猫の視線で、その一つ一つを点検する。少しばかり傷んだ髪の毛も、唇のすぐ近くにあるほくろも、早くなった心拍数も。町の音がぼんやりと聞こえる。寝相を変えて視線を移すと、洗濯物が風に揺れているのが見える。僕は、こういうのが永遠につづくのだとはっきりと分かる。ときどき小休止を挟みながら。

 目を覚ます。うるさい音を止めて、また布団に埋もれる。仕方がないからミイラのように起き上って、いろいろ面倒なことを済ませて余裕もなく出かける。すぐに泥まみれの午後がやってくる。鼠色の雲から、こぬか雨が降る。傘で顔を隠す。よれたシャツで帰宅する。そして普通に生活してみれば、もう寝る時間になっているのに気づく。今日を振り返ることも、人生を省みてブルーになることもなく、布団のなかで目を閉じる。こんな調子で、好きな季節は訪れるのだろうか。

 またあの二文字に頼りたい。あまりにもぼんやりとしていて、無様で、耳のあたりが熱くなる言葉。口にしたとたん、ゆるやかな坂道を上る二人に夕日が手を伸ばすような言葉。光が公園の雑草を撫でて、畳の隅々まで愛でる。台所で湯気をたてる晩御飯をほったらかしにして外へ出る。秋の匂いが鼻をくすぐる。薄暗い町に、街灯が一つぽうっと輝く。ぎこちなく、肩が触れる。

 どれだけ月日が経とうと、恋の感覚はまぶしい気がする。心に張りついた汚いシールが剥がれて、不思議なチカラがまた生まれる。ふとした瞬間に相手が発した言葉で、見限りかけていた世界に惚れる。突き放したくなるくらい側にいたいと思う。花に触れるように手を握る。小さな棘で血がにじむ。だけど、今はわからない。だんだんと純度が低くなっていて、変に見栄を張ろうとしている。街灯は明滅し、虫の音はさみしい。それでもアホな夢を見続ける。お弁当にあれこれ詰め込むように、あっという間に暮れる一日の中に恋の時間を差し込みたい。