ささやかだけども
春休みに入ってから、本当にぐうたら極まりない生活を送っている。昼頃に起きてベッドの上でしばらくだらだら過ごす。ご飯を食べて図書館に行く。それでもやっぱりすぐ夕方が来て、夕飯を作ったりお風呂に浸かっているともう深夜だ。それからゲームに熱中したり本を読んだり...、気づくと日付が変わっている。
最近はレイモンド・カーヴァ―の小説をよく読んでいる。中公文庫から出ている傑作選には名作がたくさん収められていて、どの作品も読みごたえがある。しかも短編だからすぐに読み終えられる。村上春樹さんが訳されているからより一層読みやすくなっているのかもしれない。知らない人には申し訳ないけど、「足もとに流れる深い川」や「大聖堂」、「隣人」なんかが面白いなあと思った。うん。
「ささやかだけど、役にたつこと」はまだ読んでないけどあらすじを知っている。とある母親が息子の誕生日のため、パン屋にバースデーケーキを注文しに行く。しかしその息子が不慮の事故に遭い、昏睡状態になってしまう。夫婦は交代で息子に付き添うことにするが、自宅に家に帰ると何度も何度も知らない人から電話がかかってくる(それも真夜中に)。息子のことで精神的にまいっているから、その電話に夫婦は恐怖を覚える。そして息子は助かることなく、亡くなってしまう。その後も電話は続き、母親はふと、バースデーケーキのことを思い出す。電話の主はパン屋だったのだ。二人は怒りのままパン屋へ向かい、パン屋は二人に謝罪する。夫婦が息子のことを話すと、「ささやかなことだけど」と、出来立てのパンを差し出す。そうして三人で朝まで涙ながらに語り合うのだった...とこんな話。
ああ、やっぱり食べるということは「ささやか」ながら大事なことなんだなあと、ビスケットを食べながら考えている。涙を流し、欠けてしまった分を胃袋で補う。出来立てのパンを食べたらきっと大概のことはなんとかなりそうな気がする。甘いコーヒーを啜りながら、朝が来るのをじっくり待つ。そんな小さな積み重ねの中にも滋養はある。
また深夜になってしまった。いけない。早く寝ないと。明日は何を食べようかな。
懐かしいって感じ
大学付近の家が壊され、更地になっていた。何度となく通ったその道で、家を見たこともあるはずだけど、どんな外観だったか想像しても全然浮かんでこない。「そこにあった」ことだけが確かで、それ以外はぼんやりしている。きっと違う雰囲気の家が建っても、なんとなくしっくりきてしまうんだろう。もしもその家が馴染みの場所だったとしても。
家が建ち、崩れ、また新しい家が建つ。ある人にとっては何気なく、ある人にとっては切なく悲しい。そこには時の流れが脈々と続いていて、乱暴なくらいに先へ向かっている。
懐かしいという感覚を、ここ最近よく感じている。昔のCMやEテレで放送していたアニメをネットで見かけるたび、あっという間に逆再生して、あの頃へループする。ただの映像でも懐かしさが加わると、独特の空気が生まれる。昔から好きだったアニメのオープニングなんかを観るだけで、胸が高鳴るドキドキが蘇る。でも結末を知ってしまった今は、そのドキドキに懐かしさが乗っかって、妙に切ない。これは何だ。
時間が巻き戻らないんだということがひりひりと伝わってくるからだろうか。沈む夕日が物悲しいのと同じだろうか。そのどちらかも知れない。懐かしさによって、自分も歳を取ったんだと逆説的に教えられる。「これよく見ていたなあ」と口にすることは、ちょっとだけ淋しい。懐かしさで笑みがこぼれたり、肌をさっと風が吹き抜けたりすることも、やっぱり淋しい。母校を久しぶりに訪ねて、全然知らない先生や生徒の姿を認めたときの感覚に近い。
だんだんと空気が暖かくなり、いろんな季節が芽吹き始める。合格者発表の文字や、慣れないスーツ姿、自分以外誰もいない部屋。生き生きとした鮮やかな「今」は、そのうち懐かしい時へと変わっていく。呆然としちゃうくらいあっという間に。そしてふと振り返ったときに、自分も生きたなあだとか、恥ずかしいことしたなあとか、複雑な感情が立ち上がってくる。忘れられ、封じ込められた景色が。
まとめ(7)
まとめです。去年の年末から今年の二月までの文章を総括。自分の性格のように、明るいものと暗いものの差が結構顕著だと思います。
1.れんこんみたいに
れんこんの穴を肯定するのはなかなかむつかしいことなんです。
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2.夜が来るたびに...
夜は一日一日迫っている。誕生日でも大晦日でも、死を連れて迫っている。
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3.オセロ・ゲーム
やだなあと思いつつ、きっと誰かと「オセロ」をするのを求めている。そんな素振りも見せずに。
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4.ボディー・ブロー
自分もいつかおっさんになって誰彼に疎まれるようになるのだと思うとつらくなる。そんな風になっても、恋だとか友情だとか胸を打つような経験はできるのかな。
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5.モリッシーはずっと新しい
ここでは述べなかったけれど、サッチャー政権の時代のイギリスと今の日本はどことなく似ているような気がする。だからモリッシーの詩がずんと響く。
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6.休日
夢だとか<生きる意味>みたいなものにほとほと疲れ申した。そんなものには騙されませぬ。70歳まで働きとうないです。
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7.糸を垂らすだけさ
独りぼっちの大きな黒い渦に飲み込まれて書いた記憶。自分ではあんまり気に入ってないけど、なぜか一番星を貰った文章。
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8.ミルク
なぜこれに「ミルク」という名前がついているのか、最後まで読まないと分からない。僕もさっきまで忘れていた。図書館で頑張った日の夜のスケッチ。
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9.すべてを疑いたい夜に
「自分もそうなのかな」と疑っている時点で片足突っ込んでいる気もするけど、分からない。夜のたび疑いが顔を出している。
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10.春と一緒に
テストが迫っていたとは思えない呑気さ。春の暖かさはもうすぐかしら。
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11.魔法かけて
フィクションに内包された魔法に、吉澤嘉代子さんのきらきらした音楽をこめて。
青春音痴
雨の中で鳩が地面をつついていた。工事現場の人たちが誰かの家を壊していた。大学には集中講義を受けている学生の姿がちらほらと。そんな風景を横切りながら、イヤホンからはナンバーガールが流れていた。車が雨を轢くやかましさを蹴っ飛ばすくらいのやかましさ。
今まではそんなに聞いてなかったけど、久々に聴くと血が騒ぎだし衝動に身を委ねたくなる感情に襲われた。「透明少女」の歌詞を読むと、これが青春なのかなあとぽかんと感じる。僕が三歳のときにはもう解散していたバンドで、今朝嬉しいニュースを見て無性に聴きたくなったわけだ。ちょうど心の調子が優れていなかったこともあって、彼らの激しさについ震えてしまう。
青春というものが未だにわからない。「青春は素晴らしい」みたいな常套句もしっくりこないし、若いということが偉いとも思わない。「若いけどこれだけ知っている」なんて、大人になればただの物知りだ。教室の隅っこの日陰でずっと過ごしてきた自分としては、青春のまぶしさがちょっと目障りだった。だからそういうものを忌避しつづけて、二十歳になった。
制服姿のカップルが手を繋いで帰るのを見るとこっちが恥ずかしくなるし、男子生徒二人組が仲良く帰ってるのを見るとイイナアと思う。自分の情けなさをふと突きつけられ、多大なるモンダイを拾い集め、同世代と比較しては一喜一憂。社会との相性の悪さに笑みさえこぼれ、隣の芝生に秘められた桃色の妄想をくり返す。そうして夜と向き合っている。
泣きたくなるぐらいに気づかされるいろんなことへの敗北に、ナンバーガールの音楽が共振する。ライブ映像の観客みたいにただ馬鹿馬鹿しく暴れたい。もし「青春」というものが終わっているとしても、それを全身全霊で渇望している。身体を吹っ飛ばされたい。圧倒的な力で。
あの頃リアルタイムで聴いていた世代も、もう三十代後半くらいかな。「青春」を終えた人たちがもう一度熱狂するさまはどんな感じだろう。鈍色だった青春も光放った青春も、夏の陽の中で乱反射する。その光の一つに加わりたい。一緒に歌を叫びながら、汗をかきたい。曇天の下でそう思う。
ぽこぽこと、思考する(14)
・ゼミの課題として提出したレポートが添削された。心配していた割に直されたところは少なかったけど、やだなあって感じだ。一回「よし、完成」と安堵したのに欠点を指摘されてもう一回向き合わなきゃいけない。すぐ終わらせて自由になりたい。それでも「適当に終わらせたんだな」と思われないように時間を置いている。
それにしても、ぱあっと集中力を持って書いた文章って、後で読むと他人が書いたみたいによく分からないときがあるから不思議だ。自分が書いた文章だけど「なるほどなあ、言いたいこと分かるよ」と言いたくなる不思議。
・新幹線の乗車券を取らなくちゃと思っていたけど、なかなか重い腰が上がらずに、春休みから数日経った。旅をすることが全然ないから、学校の修学旅行以外で四国を出たことがなかった。だから一人でこういった準備をするのに慣れず、もたもたしていた。でも「仕方ない」という諦めから出た勇気で、やっと駅まで歩いて行った。50代くらいの女性に話しかけて、いろいろと面倒な手続きを踏む。途中、大学まで戻って学割のための紙を取りに行って、なんとか往復のチケットを手に入れた。
何度も頭の中で新幹線に乗るシミュレーションをした。そのたび「上手くいくだろうか...」と不安になって、乗り継ぎなんかをネットで調べた。慣れないことをするのは大変だ。でもまあ、何とかなるはずだ...うん。
・ここ最近はチューハイばかり飲んでいる。お腹が空いてるときに呑んだら心臓はバクバクだし顔も真っ赤になってしまうのだけど、飲みやすいからいい。ジンジャーエールっぽいのとか、梅酒っぽいの。ジュースみたいに飲めるけど、「じゃあジュースでもいいんじゃないか?」と思わなくもない。もしかしたら、大人になった優越感を誇示したいためにわざわざ買っているのかもしれない。おいしいからいいんだけどね。
・今年も新譜が楽しみなミュージシャンが沢山だ(スピッツにサカナクション、それにスカイ・フェレイラ。ブルーノ・マーズなんかもくれば嬉しいなあ)。
しあわせ
将来イギリスに住みたいから英語を懸命に覚えている人がいて、本当にすごいなあと思う。「イギリスに住みたい」という願望を保ち続けているそのバイタリティを分けて欲しいし、英語力もちょっとばかり頂戴したい。英語を勉強していた頃があったけど、いつも「どうせ使わないし...」と三日ぐらいで諦めていた自分が恥ずかしい。
スコットランドとかラオスに行ってみたいなあという気持ちも、言うだけで全部上っ面で、本当は行けるなんて思っていない。お父さんがパスポートを取る準備をしてくれているけど、使うことはあるのかな。分からない。そもそも、今いる場所に満足している自分がいて、足がなかなか動かない。木々が光に照らされたり、人が人にお礼を言ったり、たまには雨で全部流れたり。そういうのを目で見て、愛でて、一日一日と過ごすだけでなんとなく満ちていく。
故郷を離れてこの町に来て、知り合いはほとんど出来ていない。それはちょっとだけ異邦人の気分に似ている。この町の静けさは異邦人には切なく聞こえるし、夕闇の郷愁は胸を裂く。自分の「距離感をわきまえない図々しさ」のせいで友達をほとんど無くしてしまったから、誰かと距離を取ることさえ怖くなって、一人の気楽さに収まっている。
ご飯を炊いたり洗濯物の匂いを嗅いだり、ゴミ出しをしたり、季節を繰り返す。たとえ違う国に行ったとしても、ほとんどこの構造は変わらないんじゃないかな。生活の地味さやコミュニケーションのむつかしさ、生ごみの臭い。夏目漱石が「兎角この世は住みにくい...」云々と言ったように、どこへ行こうと一定の「住みにくさ」はあるんだろう。この国の「やだなあ」っていう部分と向き合いながら、きちんとあるはずのしあわせにも目を向ける。普段着のしあわせ。味噌汁みたいなしあわせ。
最近はカレーをカレー粉で作るのにハマっている。カレールーのあの感じってどうやってつくれるんだろうと、いろんな味を足しながら工夫してる。まだルーには勝てない。でもその試行錯誤も十分楽しいんだ。
ねむれメンヘラ
ときどき、自分がメンヘラのように厄介な存在になる。『山月記』では李徴が虎になったけれど、僕はメンヘラになるのだ。普段はぼぉーっとしているのに、そんな夜になったら承認欲求は肥大して、ひたすら満たされてないことへの恐怖感でいっぱいになる。誰かを犠牲にしたり、依存したりすることを考える。でもそれは駄目だと分かっているから、ただ一人で噛み殺す。
NHKのドキュメンタリーで「無縁社会」に関するものをよく見るけど、日に日にそういうのを感じる。出会い系のアプリが増えているのも人気があるのもなんとなく分かる。わざわざそんなアプリを使ってまで...と思うけど、確かに人と出会うのはむつかしい。
今までの人間関係をいろいろと煩わせてきたのもこの「メンヘラ」だ。嫉妬深さや粘着質な部分、底知れないウザさで困らせてきた。これ以上誰かに迷惑をかけるわけにはゆかない。メンヘラを永遠に眠らせておくためには、一人っきりでいるしかないんだ。だけどそれは氷河期の中で生きていくぐらい困難なことで、人の手は何より温かい。「メンヘラ」の構造はあんまり分からないし、朝になると真人間になっているからどうしようもない。
メンヘラ現象は、頭をうんうんと働いているときふと起こるものかもしれない。色んな課題を前にして延々「どうしよう」と焦っていると、ちらりと見える誰かの幸せが欲しくなってしまう。あの人は本当に何にもしてなさそうなのにあんなに幸せそうで、自分は本当に何にもなくてほとほと悲しい。もしかしたら、普段からそういう嫉みは小さいながらも感じていて、蓄積されて溢れたその瞬間「メンヘラ」になる(のかな)。
いつの間にか誰かに正直な気持ちを吐露することができずに、ここで吐き出している。生ごみが腐ったみたいな臭いでいっぱいだけど、ごめんなさい。たぶん今はメンヘラじゃないと思うけど、またそんな症状が出たら、すぐ寝ることにする。うん、やっぱりこうなってしまったのは、自尊心と羞恥心、そして怠惰が原因なんだろうな。いつからこんなに取りこぼしてしまったんだろう。本当に。