NIGHT SCRAPS

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れんこんみたいに

 好きなことを仕事にするのは大変だろうと思う。ミュージシャンならば、いろんな曲を知っていないと「へえ、こんな有名な曲も知らないんですか、僕も知ってるのに」という音楽通からの皮肉を食らってしまう。映画評論家なら、「ええっ、あの名作をご存じでない?」と驚かれて、汗だくで困惑するだろう。だから別に好きでもないことを仕事にした方が、「嫌ならまあ辞めればいいか」と楽に考えられる気がする。

 朝起きて、寝起きのまま鏡を覗くと、とんでもない面が目の前に現れる。うわあ。嫌だなあと思いながら顔を洗い、ふたたび覗いてやっと人の顔をしていると思える。自分の顔や、身体のあちらこちらに不満がある。でもまあしょうがないかあと半ばあきらめている。あきらめて、好きな服を着る。その気のままで街に出る。

 気に入らないところや欠けたところは、ずっとついてくるのだろう。ものすごく好きだった人の名前をすぐに思い出せなくて自分の記憶力に呆れたり、使った食器を洗うのが面倒でしばらくそのまま置いてしまったりする。でもそんなことでいちいち「ああ、自分ってほんとばかでだめでくずd...」なんて考えるのも結構しんどくなってきた。れんこんだって穴が開いているのに。穴がないれんこんなんて、誰があこがれるんだろう?穴がないと、おせちにだって入れないじゃないか。

 れんこんの筑前煮が食べたいなあ。あと、だしのしゅんだれんこんの天ぷらは、とってもおいしい。さくさくが口の中で広がって、ああ幸せだなあと思う。自分が作る料理はいつも味が似たり寄ったりで、しかも天ぷらなんて手がこんでいて作る気が起きないから、早く帰省してお母さんに頼みたいな。僕の冬休みも近い。

 週末、気づくと君からの電話を待っている。ふとした静寂に敏感になって、ちらりとスマホを見てしまう。ただの他人だったのに、不思議なものだなあと時々思う。僕のれんこんの穴は、君のとよく似ている。自分が話す自分の醜さとか未熟さに(もしかしたら演技かもしれないけど)うんうんと頷いてくれるのは、奇妙だけど嬉しい。なんというか、れんこんの穴を味わえるのは、もしかしたら人間だけかもしれない。だからまあいろんなことに悩まなくていいじゃないですか、僕も君も。

We Can Work It Out

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