ラブリー
吐いた息が白く曇り、水道水がぬるく感じる。服を脱ぐとぱちぱちと静電気が起こった。冬だ。このところうららかな陽気だったけれど、回れ右したみたいに急に寒くなった。風呂上りにはニベアを塗るようになり、リップクリーム(これもニベア)も欠かせなくなった。ツイッターを開くともうクリスマスの話を見かけて、早いなあと思いながらも、一か月先なのか、もうすぐだ。
古着屋で見かけた深緑色のコートをすごく気に入って、7000円払って買った。Johnbullというブランドらしい。コートを買うことも、なんなら着ることすら初めてだったので、周りの目をちょっと気にしながら町を歩いた。ガラスに写った自分をちらりと見て、勝手に似合っている!と言い聞かせた。
自動販売機で飲み物を買おうとして、「あたたかい」の割合が増えているのに気づいた。250mlの「あたたかい」はよく見るけれど、500mlの「あたたかい」は一度も見たことがない。それはペットボトルが耐えられないからなのか、500mlをあたためるのに電力がかかるからなのか、どっちなんだろうとずうっと疑問に思っている。でも調べるまでじゃない。だからずうっと分からないまま春を迎えるのだろう。
今日、図書館を出たら清らかな夕方の空が広がっていた。木立は葉も落ちて、剥き出しになったいくつもの枝を眺めていると、ふと藤城清治さんの影絵が浮かんでくる。肌寒い空気を帯びた、思いっきり切ない町並みを歩きながら、大音量で小沢健二の「ラブリー」を聴いた。100%のポップソングなのに、多分に悲しい。「いつか悲しみで胸がいっぱいでも Oh Baby Lovery Lovery 続いてくのさデイズ」。コートに手を突っ込んで、歌詞を口パクしながら帰ったとさ。やっぱり小沢健二はいいなあ。特に寒いこの時期は、「指さえも」とか「春にして君を想う」とか、とってもいい。
※あ、そういえば星野源さんのライブに行けることになった。福岡に行きます。すごく楽しみで、そのぶん不安だ。というのは、自分で県外へ旅行するのはこれが初めてだから。ホテルの予約も、どきどきしながらおこなった(博多駅に近い安い宿を借りることができた)。さて、それまでどういう生活を営んでいるのやら。とりあえず生きる希望が、薄暗いトンネルの先に灯ってくれている。それだけでほっとする。ライブを観ている自分を何度も妄想、再妄想して、楽しさを寝かせるのだ。
ふくろう通信 その三
花澤香菜さんの「Nobody Knows」という曲をふと再生して、「もしも淋しさのなかで 泣きそうになった時は この街に 恋をするように暮らしてみるから」の歌詞に行きついたとき、大学生活を初めてすぐのことを思い出した。そしてこの歌を聴いてなぜだか救われていたことも。花澤さんのことを知ったのは2017年ぐらいで、「ブルーベリーナイト」を(どういうきっかけで知ったのか忘れたけど)いいなあと思ったのがきっかけだ。花澤さんは『言の葉の庭』や『orange』、『3月のライオン』など本当にたくさんのアニメ作品に出演されているけれど、僕が知ったのは曲が先だった。宮川弾さんという方が作られる曲がどれも素晴らしいので、ぜひ聴いてほしい。
花澤香菜さんの曲はサブスクリプション配信されていないので、iTunes StoreやGoogle Musicなどで購入するか、CDを手に入れるしかない。僕は数曲購入しているけれど、別に今から配信が開始されても素直に嬉しい。何十曲も買ってしまっているのなら「ええ...、もうちょっと我慢してたらよかった」なんて思うかもしれない、ごめんなさい。
それにしても、なんでこんなに可愛いんだろう。花澤さんの声質と、ジャズっぽいメロディの親和性がすごい。ずうっと地味な曲をやってほしい...。やくしまるえつこさんが提供された「こきゅうとす」もとてもよかったなあ。...では、今日の「ふくろう通信」はこの辺で。
愛すべき無駄
昨夜「明日何食べようかなあ」とうだうだ考えていたら、楽しくなって眠るのが遅くなってしまった。スマホのメモにいろいろと書き込んで、とりあえず目をつむってみる。食材を買う自分とか料理している自分の姿を妄想して、そこから違う妄想へとびゅーんと飛んで、よく分からないうちに眠っていた。
最近の朝は寒いから、布団に抱きついて温もりを確保したくなる。そしてそのぬくぬくにやられて、沼の中に沈んで行ってしまう。眠気とのすごく地味な格闘を終えた後、適当にご飯を済ませ、髪を洗い、服を着替えた。月曜の11時、町はいつも通り静かで、信号無視して通ってやろうかと思うくらいだった。買い物の部分は、すごく長いから割愛する。あれこれ見ていたら本当に目移りするのだ。
料理と言ってもすごく単純だ。ぶなしめじと小松菜をバターで炒め、醤油をかけて終わり。豚バラとごぼうを炒めて味付けは焼き肉のタレで決まり。大根の煮ものは昆布だしと醤油と砂糖と。お昼はそんなにお腹が空いていなかったから、それをちょっとつまみながら、ジンジャーエールを飲んだりした。
料理を作っているあいだ、なんだか気が紛れて楽しい。どう切ろうかなとか味付けは...とか、次にこれを炒めてその間あれを洗って...みたいに作業している時間が愛おしい。ジャムおじさんもきっと毎日楽しい日々を送っているにちがいない。それにしても、パンがどうして喋ったり戦ったりできるんだろう...。いやいや、それはやなせたかしさんにしか分からない。
ブログ何書こうかなあ、というのも楽しい時間の一つだ。僕が物心つく頃にはもうメールが普及していたけれど、手紙のやり取りしかできなかった時代もまた幸せだったろうなあと思う。手紙の初めに何を綴ろうかと季節の移ろいに目を向けてみたり、自分だけの発見を手紙の相手にひけらかしてみたり、なんでもない日常を伝えたくなったり。手紙にペンを落とすその姿を想像すると、なんだか可愛らしい。
星野源さんの「ひらめき」という歌に、「輝き 無駄の中に」という言葉が出てくる。無駄なことをしていると、ときどき無性に不安になってしまう。みんな真面目に勉強してるのに、なんで俺は好きなアーティストのプレイリストを熱心に考えてるんだ!と。本当はどう進んだっていいはずなのに、みんながずんずん繰出しているほうへと足を向かわせる。向かわせないと、心が汗をかく。
僕は今日も手紙を瓶につめ、海にやさしく放り投げる。どこへ流れつくのか考えながら、ぽつりと空を見上げている。
ぽこぽこと、思考する(8)
・昨夜、お風呂に浸かりながら考えていた。帰省したときに両親に何かプレゼントしたいけど、何がいいだろうと。二人は無趣味だから、これをあげれば絶対喜ぶ、みたいなのがない。息子からもらったものなら大体は嬉しいだろうけど、要らないものよりはやっぱり要るもののほうがいい。衣食住にかかわるなにか。...むつかしい。
・今日は自転車で街まで行って、古本市を覗いてみた。「古本市」という名前なのに、レコードとか映画のパンフレットまで売っていて、人びとがそれを漁っている姿を僕は眺めていた。好きな喫茶店の人も出店していたけど、顔を合わせるのがなんだか気恥ずかしくてやめた。特に欲しいものもなくって、桃のファンタをごくごく飲みながら帰った。
・そういえば、大学が図書館の本を一般の人に売っていた。本の数がどんどん増えると、どうしても棚からはみ出してしまう本が出てくる。とある大学では、それらが燃やされてしまったらしく、惜しいなあと思っていたから、こうやって一般の人びとに文化が行き渡るのは誰も傷つけないからいい。
・今日はずっとceroを聴いて歩いていた。cero、いいよね。昨日も『Poly Life Multi Soul』を流しながら夜道を歩いた。硬直した心を音楽が解きほぐしてくれる。誰も見ていないのを確認して、そっとステップを踏む。僕はもっと踊りたい。だけど笑われたくないから、普通を装って欲望を殺している。もっと身体を揺らしたいなあ。
・生まれた環境ってすごい大きいなあ。自分ができないあれこれに対して、僕はどれくらい責任を負えばいいんだろう。逆に、自分ができることのどれくらいが僕自身のものなんだろう。はて。
そうそう天使は来ない
週末は疲れがどっと押し寄せる。いいなあと思っていたブロガーさんが僕の読者でなくなっていたり、節約するのめんどくさいなあと感じ始めたり、授業をサボって古着屋に行ったものの、全然いいのが見つからなくて「何してるんだろ」と思ったり、そうしているうちに今日が来た。特にいつもと変わらない一日。
授業を終えて買い物して、ベッドに横たわり、時間を潰した。午後六時を過ぎた頃に財布とかを持って外に出た。もう真っ暗。セーターの細かい隙間を冷たい風が通り抜けていく。自転車にまたがって目的地へとぶらぶら走る。あの喫茶店。大学に自転車を止め、少し歩くとそこに着く。誰もいなかったらどうしようと思ったけど、大学生っぽい三人組が腰かけていて安心した。
お店のなかは暖かく、耳の先がぽっと紅葉する感じがあった。つげ義春の『ねじ式/夜が掴む』とか村上春樹さんと安西水丸さんの『夜のくもざる』、川上未映子さんのエッセイをざっと読んで時間を過ごした。ときどき電車が通ってがたがたと空気が震えた。レコードのぷつぷつした音が聞こえた。一時間ぐらいいたけど、僕の後に来たお客さんが先に出るのは気まずかったから、お会計を済ませた。外に出ると、燃える頬を11月の風が冷やした。
あんなに贅沢な時間であふれていたのになあ。夜道を歩いて帰るのはさびしい。ふと、先生に借りた本をお風呂に浸かって読んだらどうなるかなあと妄想してしまった(疲れていると、しちゃいけないことをしたくなる)。絶対だめだろうとは分かっているけど、本を湯船に落とすところまで思い浮かべてしまう。部屋に戻ってすぐ温かいお風呂を入れた。チェット・ベイカーの歌を流しながら、羊水に浸かる胎児のように湯に身をゆだねた。ふう。
そうそういいことは訪れない。仲良くしてくれるのかなと思った先輩も他の授業では素っ気ない。中国語のリスニングはほとんど何も分からずただただ神経をすり減らす。たまの贅沢もあっという間。おいしいご飯を食べるより、友達とくだらない話を何時間もするほうが好きだったりする。この前も、話しているうちに眠ってしまった。ずうっと話していたかったのに。友達みたいな人がもっと増えたら、面白いのになあ。でもどれだけ増えたって、友達の素晴らしさは変わりっこない。
週末には、ときどき昼まで眠ってしまう。あー、一日損したと思うけど「損してやったぞ」という気持ちもある。何にもしないということができたということ。たまにはそれも贅沢になるんだ。うん。
エス・オー・エス
肥えている気がする。別に息苦しい感覚は覚えないけれど、確実に食べている量が増えている。なんだか知らないがお腹が空いているような気がして、ぼさぼさとスナックを手にして口に放り込む。それは、「ぼんやりとしたさみしさ」が関係してるのだろうか。「ぼんやりとしたさみしさ」は、囚人の気分に似ている。いつまでここに閉じ込められているんだろうという切ない気分だ。
去年の夏、付き合っていた人と別れた。帰省したときに、母に「太った?」と聞かれた。たしかにその頃の写真を見ると、頬のあたりがふっくらしていて笑ってしまう。思い当たる節もある。アポロというお菓子を妖怪のようにぼりぼり食べていたのだ。糖分にただ救いを求めて、その食べている時間に癒されようとしていた。他の誰かに頼ろうとは思わなかった。そういう相手もいなかった。だから食べることしかできなかった。
高校の先生がよく「分からないところがあれば聞きに来てね」と言っていたのを思い出す。先生にそういうことを聞いた覚えがない。聞くことが申し訳なかったし、聞いて結局分からなかったらやっぱり申し訳ないと思った。その代わりお母さんとかに「ここ分かる?」と聞いて「分かるわけないやろ!」とツッコミが来るのを楽しんで、「わかんないなあ」とうだうだやっている方がまだよかった。
そうした状況は依然として変わっていない。いや、人に頼ることがだんだん苦手になっているんじゃないかと疑ってしまう。テスト前に「授業のプリントの写真送ってほしい!」とラインしてきた同じゼミの女の子がいた。体調の優れない中で写真を撮りながら、「人に頼れるってすごいなあ」と思っていた。なるべく欠席しないようにびくびくしていた自分とは違う。
ふうっと疲れた日には、みんなが幸せそうに見える。「友達がいない」という人には案外友達がたくさんいて、「お金がない」という人はなかなかいい生活を送っている。ふっと恋人の存在を匂わせる写真を見るたびに、ぴゅーっとどこか遠くへ行きたくなる。死ぬまでネットに浮遊するんだろうか。なんだか辟易する。突然何か月もツイートしなくなって、久々のツイートが「ディズニー楽しかった!www」みたいな人になりたい。自分もそういう生活に馴染めるだろうか。あんまり考えたくない。
今日はやくしまるえつこさんや相対性理論の曲をたくさん聴いていた。生きづらいなあと感じているときに聴かれる音楽は、何十年もいきいきと呼吸するだろう。僕の文章もそういうのでありたい。人気になりたい。「POPEYE」とかで連載してみたい。
まとめ(5)
お気に入りを安易にまとめてみました。寒い季節に、熱いコーヒーなんかを飲みながら楽しんでください。
1.エスケープ
やもりにそそのかされて、町へ
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
2.水槽
雨の町と、水槽に関する考察
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
3.プール
あの子どうしてるんだろう。元気かな。
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
4.変わってるふりをしている
他人と違うと思われたい人の独り言
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
5.空のことを考えよう
疲れてるなあ。
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
6.Deadline
夜を駆ける、今は撃たないで
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
7.花束と陰りと
日陰者とザ・スミスの親和性
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
8.夜を素描する
夜がそろそろ心を蝕む
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
9.ただのやさしさだったのにな
やさしさのむつかしさ。
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com
10.サラダ・ボウル
あなたにサラダ、サラダ記念日。
r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com