町くらげ

 ふと本屋に立ち寄って、目当ての雑誌がないことを確認してそこを出ると、外はもう薄暗くなっていた。遠くの空はかろうじて淡い青色をしていたけど、それさえ消え去りそうだった。侘しさを感じながら自転車に乗ろうとしたら、道に迷った男の人に話しかけられた。「スマホの充電が切れてしまって...」。地図を説明するのが難しいから大きい道に出るまで一緒に行きましょうかと、二人で少し歩いた。彼は大阪出身で、小学校で勤務するために最近ここに来たのだと知った。そして僕と同じく方向音痴だった。

 この町では時間がゆっくりと流れている気がする。僕がそう言うと、彼も頷いてくれて嬉しくなった。公園のそばを通り、小さな橋を渡り、割と大きな道に出た。スマホの画面を彼に見せながら拙い説明をして、彼と別れた。バイクで走っていく彼の背中を見送って、僕も薄闇の中を進んで部屋に戻った。あの人、ちゃんと帰れただろうか。

 ふとした出会いもあるんだなと思って、その喜びからこの文章を書いている。ここ数日、人が多いところにいると疲れたりうんざりしてしまうことがあった。かつ、人と接するという経験があまりにも乏しいために、たった十分ぐらいの出来事に依存している。この町に吹く風は、まるで呑気に泳ぐクラゲみたいで、それを二人して感じていること。ばちっと電気が走る感覚があった。そして僕は厚かましく、彼が子供たちの前で話をしている様子を想像する。「先生が道に迷ったときに、案内してくれた人がいてね...」。子供たちのどうでもよさそうな顔が浮かぶ。でもいいのだ。

 まだ痩せこけた枯れた枝もあれば、花が色づく枝もある今。膨らみ、実になり始めた未来をあちこちで眺めることができる。永い春にはいろんなことがあるだろうから、あなたが狂いそうになったら静かな町に来てガーっと叫べばいいと思います(僕はしたことないけど)。ここには、クラゲがいます。大きくて無口で、ときに見えなくなってしまう、そんなクラゲがこの町の営みを生み出しています。

君と暮らせたら

君と暮らせたら

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