恋する人がいたら

 夕方に外へ出るのはあまりないのだけど、今日はなんだかぶらぶらと出かけたくなってしまった。蜘蛛の糸が少し絡んだ自転車に乗って(蜘蛛の糸って除けるの億劫だし、気持ち悪いんだよねえ)、本屋さんへと漕いでいった。西の空はまだ明るく、雲には夕焼けの色がにじんでいた。町並みは涼しい風といっしょに、秋の格好に身を包んでいて心地よかった。秋の黄昏は、なんとなくでも雰囲気がある。

 流れる風景を眺めながら、「もし恋人がいたらけっこう楽しいんだろうな」とぼんやり思った。彼女の話に耳を傾けながら、静かな道をゆっくりと歩いて(途中でミスドに寄ってシナモンリングを食べたりしながら)黄昏に帰ったりするのだ。どちらかの部屋で映画なんかを観たりすることもあるだろう。そんなことを妄想すると、恋をしたい気持ちが穏やかに起こってきた。夕空がきれいだとつい写真を撮ってしまうのだけど、恋をしていたら「あれ、きれいだね」と言ってそれで満たされるんだろうなあ。

 僕の好きなたくさんの歌や物語も、そのいくつかは恋の力で生まれたものだ。オアシスの''She is love''という曲も、ノエル・ギャラガ―が当時付き合っていた彼女のサラ(今は結婚している)に向けて書いたものだ。自分のことじゃなく、特定の愛する誰かについて書くのはきっと楽しいだろうし、歌詞もふっと自然に現れるんだと思う。ただ、ポール・マッカートニーの''Heather''のように、離婚してしまうと黒歴史になってしまうから安易には書けないけれど...。でも、ポールがあれだけ元気に、はつらつと活動しているのは、恋も関係しているんだろうなあ。素敵だ、と思った相手が自分を受け入れてくれたときの充足感とか、恋人と歩く風景の輝きとか...。

 僕が音楽を聴いたり本を読んだりしているのは、その世界が好きだからということもあるけど、そこに没入していると気分が楽だからというのも理由の一つだ。一人暮らしの世知辛さ。一人にさせられて考えることなんて、自分のダメな部分ぐらいしかない。その時間が辛くて、あちら側の世界に引き篭もっていたいのだ。それはお酒みたいなものかもしれない。僕はお酒が飲める歳じゃないから、飲む方々の気持ちは分からない。それでもときどき、パブやバーに足を運んで誰かとお喋りしてみたいなあと思う時がある。それはある種の恋しさだ。

 今日の夕方の空は、うっとりしてしまうものがあった。薄紫色が、立ち込める霧のように浮かんでいた。怪しげというか艶めかしいというか、大人の女性がこっそり微笑んだときのような空だった。うーん、言葉にしようとするとどうしても無理が出てくる。こんなもの、隣にいる女の子に「あれ、きれいだね」と言ったらそれだけで済むことなのに。恋する人がいたら...。

She Is Love

She Is Love

  • オアシス
  • ロック
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