プール

 ふと思い出す人がいる。突然、風がシャツを揺らすようにふっとその人の顔や会話が現れるときがある。今日、何気なくツイッターを見ていたらそれが起こった。あ、あの人どうしてるんだろう、と。でも名前を打ち込んだって同じ名前の人がたくさんいて、どれがその本人なのか分からなかった。あるいは、どれも本人のものじゃないかもしれない。そもそも、「やあ、久しぶり」と言っても相手が覚えていない可能性が高いのだ。

 その子は田中くんと言った。下の名前は伏せておこうと思う。田中くんと僕は同じ小学校の生徒だったけれど、一緒のクラスになることはなかった。それでも、仲の良かった友だちが彼とよく話していたし、見かけることも多かった。肌が白く顔立ちが整っていた田中くんは、どこか静謐そうで、大人しい感じがした。なんとなく、僕は彼と友達になれる気がしていた。話しかけるタイミングはいくらでもあったと思うけれど、夏休みになるまで僕らは言葉を交わすことがなかった。

 小学五年生の夏休み、僕は学校のプールに何日か行っていた。家庭科室で水着に着替え、プールへと向かう。準備運動をして、シャワーを浴びる(なぜか「雨雨ふれふれ母さんが...」という童謡をうたった)。夏休みだから、授業よりも割と自由に泳ぐことができた。25メートルを頑張って泳ぎ切った記憶もあるけれど、先生によっては遊んでもオッケーだったりしたのだ。その日はかなり自由だった。

 人とこんなにすぐ仲良くなれるんだ、と今でもびっくりするんだけど、僕と田中くんはプールの中でじゃれ合った。男子がよくするように、海パンを脱がそうとしたり脇をくすぐりあったりした。...それまで言葉を交わしたことがなかったのに。僕のすぐ近くで田中くんが笑っていて、彼と悪ふざけしている。嘘みたいだった。そして何より不思議なのが、僕らがそうやって遊んだり言葉を交わしたのがそのプールの日だけだったことだ。あんなに楽しかったのに、学校では別々のクラスだから話しかけるタイミングを掴めなくって、そのまま卒業してしまった。

 こういうときに「自分がもう少し積極的だったらなあ」と思う。今でも連絡を取り合っていたかもしれないし、たまに会って食事したりするかもしれないのだ。ずっと気になっていたからこそ、なんだか惜しい気がする。彼は今、どこで何をしているんだろうか。一つ気になるとすれば、田中くんは僕のことをどう思っていたんだろう?ということだ。僕のように、話してみたいなあと思ってくれていたんだろうか。田中くんといま会ったとしても仲良くなれるんじゃないかと、ぼんやり考えている。あの日のプールみたいにね。

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