NIGHT SCRAPS

夜をつらつら書き連ねるブログ

気持ちいい場所へ

 羽を伸ばして、汗をかいたまま自転車を漕ぐ。本屋へ寄って柴田元幸さんが編集されている雑誌『MONKEY』を立ち読みして、また外へ出る。ときどきハンカチで肌を撫でながら、夏の空気を駆け抜けていった。疲労にまた疲労を上塗りするのは少し滑稽にも思えたけれど、一応しなければならないことが一段落して、気持ちが浮足立っていたのだ。やはり、風を浴びながら町を走っていくことは気持ちいい。

 川沿いの細い道を通っていると、小学生が数人、おばあちゃんと話しているのが見えた。僕が小学生のとき、いや今までずっと狭いコミュニティで暮らしてきたから、こうやって近所の人たちと関わっている子たちはとっても幸せそうに見える。日焼けした肌と汗で湿った髪。そんな風景を横切って、僕は家路につく。気持ちいい疲労。帰ってきて頭から冷水を浴び、暑さから脱皮する。そんなことを含めて、出かけることは贅沢で美味しいものだ。

 話は変わるけれど、「変わっている」という言い方が前から嫌いで、あんまり使わないようにしている。いつから嫌いになったのかも、どうしてかもわからない。自分が「変わっている」と言われたのか、他人が言われているのを耳にしたのか。どちらにせよ、自分と他人との差異を「違っている」ではなく「変わっている」と表現するのが嫌だ。生きて、暮らして、他人と関わる中で周りとの違いを感じることが増えるだろう。「変だ」と言われることだって幾度となくあるだろう。そうなったとき、今まで気持ちいいと感じていたことをすんなりと手放してしまうような気がして、なんだか怖い。「変だ」という言葉には、誰かの何かを奪い取ってしまうチカラがある。

 ごくごく普通に(普通って何かはここでは言わない)味わえていた「気持ちよさ」が、途端に気味悪いもののようにされる日。疲れた世界から飛び立ってふらふら離れていられたのに、地上から手が伸びてきて羽をもがれる日。そんな日はきっと訪れる。気持ちいい場所はいつでも待ってるのに、目を閉じて後ずさりするのかな。いや、人知れず、誰かに馬鹿にされたってこそこそと気持ちいい場所へ駆け抜けていきたい。社会人になって、参加したくもない行事にも顔を出さなくちゃいけなくなっても。

 羽を伸ばして、汗をかいたまま自転車を漕ぐ。公園では子供たちがサッカーをしていた。ブランコには女の子が何人か。僕を追い越していったのは高校生の男女で、仲よさそうにお話をしている。イヤホンからはスガシカオの「夕立ち」が流れている。全然変じゃない、気持ちいい風景を走り抜けていく。

夕立ち

夕立ち

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