深夜、胎動

 初めて訪れる街というのは、慣れるまで奇妙に映る。スマホを見て、不安に脅されながらバスに乗る。ああ、ライブ会場に行くまではなんとか順調そうだ。どんどん人が乗り込んできて破裂しそうになるけど、この行き先が合っているんだという安心も高まる。会場近くに止まると、昆虫とか魚類が卵を産み付けるみたいに、大勢の人がバスから吐き出ていった。僕もその一つ。降りると雨が服を濡らした。

 ライブが終わり、熱狂に浮かされたまま外に出る。時間はもう午後9時近く。夜の街に人の洪水が広がって、ずいぶんおっかない風景が広がっていた。仕方なくというか、その波に浮浪しながらしばらく当てもなく歩いた。傘と傘がぶつかって雫が跳ねたり、水溜まりを避けようにも避けられなかったり、さっきの熱狂が夢のように遠くなった。どうやって帰ろう。この人波がどこに向かっているのかも分からないのに。スマホの充電も残り少ない。ホテルのチェックイン時刻だって近づいている。

 幸いなことに、彼らは地下鉄に向かっていた。二十歳にして初めて乗る地下鉄。人を押しのけて券を買い、ひとより先に乗り込んだ。座る場所が無くて壁にそっともたれかかると、どんどん身動きができなくなった。ドアが閉まり、地下鉄が動き始めた。本当に動いているのだろうか。ただ暗闇の中でがたがたと揺れる感覚しかない。まるで産まれようとする胎児の気分だ(まあ、そんなの忘れているけれど)。僕らがいまどの辺りにいるのかは、停車するまで明かされない。出ることなど許されない。

 都会の土の下には今日もたくさんの胎児がいて、街の皮膚の裏をドクドクと流れている。不思議な感じだ。からっぽの暗闇の中で、みんな何を考えているのだろう。ぼんやりした明かりに照らされた自分を見て。あんだけたくさんのヒトに埋もれて、嫌気がさしたりしながらそれでも続いていく営み。街という母体は、毎日毎日暮らしを産んでいる。毒素やアンモニアなんかを処理しながら、一つ一つの細胞に栄養を与えながら。

 ヒトから吐き出て、つまらないホームを去って、エレベーターで地上に出た。怪しいムードの道をそそくさと歩いてホテルに入る。すべての疲れをベッドに預け、ふとカーテンを開けてみる。そこには夜景なんてものはなかった。あの真っ黒な平面が現れただけだった。まあ、いいや。僕はズボンを脱いでいやらしいことをして眠った。

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