NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

ソーダフロート

 午前四時に君から電話がかかってきた。ちょうど、隣の部屋からテレビの音が消え、しんと静かになったときだった。驚いてすぐに出てしまった。それにしても、どうして僕がまだ起きていることを君は分かっていたんだろう。晩御飯を食べたあと、のろのろとベッドの上で丸くなってまぶたを閉じたのだ。中途半端に目が冴えていた。それで君とくだらない話をしていたら、だんだん空気がおだやかになって、青白いほのかな光が部屋にさしているのに気づいた。君から空の写真が送られてきた。朝焼けの混じったソーダフロートみたいな空だった。

 このところ雨もなく、ただ湿った風が吹く。冷房の効いた教室に長いあいだいると、そこを出たときの感覚が妙に懐かしい。プールの時間が終わって教室まで帰る途中、夏の風が心地よかったあの感じ。本屋まで自転車を走らせているあいだ僕は考えていた。早朝に君と電話するまでどれくらいの不安を抱えていただろう、と。ずっと君と話したいなあとぼんやり考えていたけど何でだっけ、と。得体のしれない不安が膨れ上がるとそれから逃れるようにくだらないことを妄想して眠った。足元が見えなくなると危ないんだ。少しの波でどこまでも流されてしまう。でも君と話したらいろんなことを忘れてしまった。たった数時間で。

 本屋さんで雑誌を予約して、シャツの中でこもる温度を感じながら、自転車を漕ぎ始めた。明日の今頃、またここを通るんだ、紙に包まった雑誌をカバンに入れ、未知の(きらきら光る)文章をたくさん抱えて家に帰るんだ。部屋に戻り、紙を開く...、光。

 今日もまた無駄に一日を消費してしまった。半ばなんとかなるだろうと思い、半ばどうにでもなれと思い。風が流れ、繰り返すように風船が大きくなっていく。完全に膨らんで、僕の手から離れどこかへ飛んでいかないように、ときどき空気を抜かないといけない。でも気づかないうちにガスは溜まっていく。まっすぐの道を走り、ゆっくりと左に曲がったとき、夕方の空が見えた。夏が近づいている、夜がどんどん短くなっているんだと思った。まだ青さが残る空に、うっすらと夕焼けがにじんでいる。僕はすぐに君が送ってきたあの写真を思い出した。君の見た空にそっくりだった。