NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

タイトロープ

 自分が生まれ育った町を頭の中で組み立てる。マンションの階段を下りて大きい道に出たのなら、東の方角に進んでいけば駅前のデパートや喫茶店が、北の方角に歩いていくとツタヤとか本屋さんとかあって、もう少し遠く進んでいくと三年通った高校がひっそり佇んでいる。よく言えばシンプルな町。家と企業と、ときどき小さな公園。町を構成しているのはごくごく少ない要素だ。

 一度だけでも友達の家に泊まりたかったなと、時々思う。でも、緊張しすぎて黙っちゃって、「あの子返事もろくにできないのね」とか言われただろうな。何話していいか今でも分からないもの。まあ、夜遅くまでスマブラしたり下品な話したり、そういう時間も恋しかったりするけど。ドラマでよく見る家族ぐるみの付き合いというか、親同士が知り合いでその関係で子供も仲良くなる、みたいなのにもちょっと憧れる。同性とか異性とか関係なく。

 夜、そろそろ寝ようかという頃にバイクで田舎の道を走り抜ける集団にも、ちょっと惹きつけられている、たぶん。『AKIRA』の金田や鉄雄の姿が目に浮かぶ。誰かの家で集合して、適当にラーメンでも食って、そろそろ出ようかとヘルメットを被りだす。さっき飲んだコカ・コーラでゲップが炸裂する。沈黙だけが鎮座する車道は彼らだけのサーキットみたいなものだ。さあ、テールライトが点から線へ。自分の足音が町中にざっと響いていく。それを仲間同士で共有する。朝になって鳥が鳴きはじめるまで、新聞配達の人が働きはじめるまで。

 誰かが辛そうにしているのを見てふとパソコンを開いたけど、困ったな、もう寝なくちゃいけない時間になった。親のいびきも、ハムスターがガサガサする音もない。古くて安い部屋を離れていつでも誰かを誘える環境にいるけれど、別にあの日々と変わりない。つまらない町なのに、見慣れたお店が閉店していると心のどこかでがっかりしている。平坦な風景でも少しずつ脱皮して色を変えているのか。ちょうどこの季節、いろんな雲の色が見えるみたいに。さあ、そろそろテレビを消そう。いろんなもので誤魔化して、また一週間やり過ごそう。こうやって手紙を瓶に詰めて、海に投げたりしながら。黄昏の浜辺で、誰かが拾ってくれるのを待つ。