NIGHT SCRAPS

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アイスクリーム微熱

 ぬるい空気と抱きあう日々ばかりだけど、ときどき恵まれて、傘も持たず出かける日がある。このあいだも久しぶりに路面電車に乗り、のんびりと時間を使って駅まで向かった。そのあいだ、外の暑い世界をぼうっと眺めては他の乗客のことをちらりと見て、また景色に目を戻した。電車は蛇のように町をうねって、ときどき休んであくびした。いいところで降りて駅でバスのチケットを買うと、また路面電車に乗りこんで、さっきとは違う乗客と景色が気になった。そして見慣れた町。

 そのまま買い物に行って、ついアイスクリームを買ってしまった。箱に6本入っているやつ。汗が粘膜みたいに肌に張り付いて気持ち悪い。それをシャワーで洗い流して、アイスをぺろりと食べた。うん、そのひんやりとした甘さでだいたいのことを忘れられる気がした。まだ暑すぎない季節に食べるアイスクリームはどうしてこんなにおいしいんだろう。ときどき見かける、自動販売機で売ってるアイスバーも無性に買いたくなる。

 アイスクリームを食べながらいろいろ考える。どぎつい部屋を出て、くたびれてしまった身体で自転車を漕いだこと。暑いからちょっとコンビニ寄ろうよと、自転車止めて中に入って涼んだこと。アイス二個買って外に出て、あちーあちーとそれを頬張る。溶けそうになるのを気にして、互いのを食べ合って、口の中でふたつの味が混ざり合う。ぬるくなったのを舐める。あの子のベロの味。酸っぱい葡萄の香りがしつこく残って、唇のまわりがベトベトして。それから大人しく家まで帰ったのか、いろいろ寄り道したかは覚えていないけど、別にいいやって思う。

 ぬるい空気と抱きあう日々ばかり。ときどき淡い青空を信じて外に出て、唐突にどしゃ降りになって濡れながら帰る日がある。眼鏡についた水滴なんかを拭き取って、ため息を吐く。そうだ、と思って冷凍庫を開けて気づく、あー昨日食べきってしまったんだと。洗濯物はなかなか乾かないし、そうとは言えシャツはすぐ汗ばむし、頭がいたくなる季節。今年の夏だってべつに楽しみなことはないから屋台で売られる金魚みたいな気分だ。ゆらゆらと泳ぐ水の中では、祭りの音も花火の美しさも関係ない。まあ、こちらはアイスクリームが食べられるだけまだましかもしれない。その甘さに逃避してしまえ。火照った額を冷やしたまえ。

メランコリニスタ

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