NIGHT SCRAPS

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銀河

 地上から遠く離れる感覚。宇宙に行く機会がない限り、あれだけ浮き上がれるのはあの時間ぐらいだろう。今でも、空を小さな光の点が移動しているのを見かけると、あの粒の中に人が何人も乗っているのかと不思議に思う。僕が初めて飛行機に乗ったのは高校の修学旅行のときで、帰りの便の記憶が強く残っている。なんとなく友達になりたいなと考えていた男子生徒と席が隣になって、二人だけで少し会話できた思い出。彼は窓側の席に、その左隣に僕が座り、ときどき彼越しに景色を眺めた。

 街の明かりが、多くなったり少なくなったりする。光がぱちぱちと広がったかと思えば、ずうっと黒い海が続く。あそこは大阪かな、そろそろ着陸かなと、明かりの強さや多さで推測してみる。宝石の輝きに人々が魅了される理由が少し分かった気がした。ただの光の連鎖が、とってもすてきなものに感じられるのだ。

 その風景とは関係ないかもしれないけど、僕は去年受けた授業のことを思い出していた。ホッブズやロックといった哲学者が「政治社会はこうあるべき」と考えたことを学んだ。統治者が与えられる権利はどこまでなのか、人民は統治者に対してどれくらいの自由が保障されるのか。そういうのって、実はあんまり意識したことがないことだと思う。先生の話を聞く部分が多かったけど、他の学生と話し合う時間もあった。ホッブズの考えにはこういうデメリットがあると思う、ロックとはこんな相違点がある...。みんなの頭の中には政治社会が浮かんでいて、そこで起こる問題や恩恵を想像している。そのことが妙に面白かったのを覚えている。

 機内の窓から見えた小さな銀河は、どれくらいの人によって作られているんだろう。全国に電気が行き渡り、ビルや住宅があちこちに建ち、明かりが灯る。道路を街路灯がほのかに染め、車のヘッドライトが夜を駆けていく。その景色には、僕もいる。機内ではたどたどしく話していた彼とは友達になり、センター試験のあとには一緒にCD屋に寄り、そのあとドトールで夜を費やした。そうした営みを作り出しているこの社会。正しさも不条理も含んでいる社会。今日もまたうごめき、光を放っている。

 あの授業で習ったことは、なかなか実践するのは難しいだろう。統治者にどれだけの権利を許して...とか、ね。でも考え続けることは無駄じゃない。こぼれ落ちる人を一人でも掬うために。悪意の手を、団結して払い除けられるように。銀河はそうして豊かになっていくはずだから。

夜を駆ける

夜を駆ける

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