桃色の風

 春という季節に、別段いい思い出もない。例えばクラス替えだ。人間観察をするのが好きで「誰々と誰々が仲良くて、誰々はそうでもない」と考察ばかりして、自分はその輪に入るのが苦手だった。もう出来上がっている関係のなかに入って「僕も僕も」と主張する勇気がなかったのだ。

 さて、図書館で本でも読もうかと行ってみれば、男女が隣り合わせに座り、仲睦まじそうにしている。つい中指を立てそうになるけど、我慢して席に座って本を開ける。どうやってこの二人は知り合ったのだろうと頭の片隅で推理してみたりする。サークルが同じだったのだろうか。それとも、二人とも同郷で、昔からの知り合いだったのだろうか。どちらにせよ、二人は本当に幸せそうに見える。きっと勉強もその他のことも二分割しているんだろう。正直、羨ましい。

 自分は気づかなかったけれど、町には桃色の風が吹いている。人々を繋ぎ、頬を赤く染めさせる。桃色が色褪せてお互いのだらしないところが目についても、それさえも愛おしく、可愛らしく感じられる。寝癖のままで、寝間着のままで、なーんにもしない。そういうのが良いなあと思う。

 春はずいぶん忙しない。新しい環境にあたふたしていた過去と、これから先の(たぶん忙しくなるだろう)未来を同時に考えるからだ。そして今のこともちゃんと意識しないといけない。ああ大変だなあと分かっているけど、ついうたた寝してしまう。仄々とした温もりに抱擁されながら、夢の谷間に落ちていく。もう何もかもが面倒くさく感じられる。やらなきゃいけないことをテキパキとこなせる人がすごい。本当。

 次に桃色の風に出会うのは、自分がどういう環境でどういうことをしているときなんだろう。クラス替えでひとり慌てていた頃の自分とは相も変わらずだけど、いつか恋に浮かれて、(羽織っていた上着も脱ぎたくなるぐらい)じんわりのぼせてしまうときが来たら、それはきっと春だろう。

春風 <Alternative>

春風

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