NIGHT SCRAPS

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スロー・ライフ

 靴下を履いたまま眠るのは、身体が拘束されてストレスがかかるから疲れも抜けにくいらしい。たしかに、部屋に帰って靴下を脱いだ時の楽々さは言葉にできない。だから忙しい生活にがんじがらめにされると、ぱっと脱ぎ捨てたくなる。素っ裸でお風呂に浸かるみたいに。

 二限目の授業を終えて、暇になったから喫茶店へと歩いた。途中、銀杏の木が枯れた風に大きく揺らされて、黄色い葉っぱが蝶々みたく地面に落ちていった。どうして寒くつらい季節なのに、枝を空気にさらすんだろう。葉をいっぱいまとう方が暖かそうなのに。そういうことを考えながら、コンクリの階段を上り、ドアを開ける。いつも座ってる席に落ち着いて、いつものメニューをお願いする。他の席には中高年の男女が三人と、主婦っぽい女性二人組がそれぞれ座っていた。

 『HOSONO HOUSE』の頃の細野さんに似ているお店の人は、一人であれこれ(料理を作ったりレコードを流したり)している。だからメニューが出てくるまでの時間、僕は本棚から漫画を手に取って読んでいた。近藤聡乃さんの『ニューヨークで考え中』。ずうっと気になっていた本で、線の感じが柔らかくていいなあと思った。ニューヨークでの生活がほわほわと描かれていて、読んでて気持ちよくなる。ニューヨークは一月二日から仕事とか学校が始まるんだと知って驚いたし、近藤さんは自由業だから好きなときに仕事ができるのが羨ましかった。好きなときに好きなことをする。ふう。

 そんなこんなでメニューが来た。サンドイッチとコーヒー。お店の人の気まぐれか優しさか、ポテトサラダが少しおまけされていた。うん、こういうところが好き。ジャズを聴きながら(僕が覚えているのはホレル・シルヴァーの『Song For My Father』)、サンドイッチにかぶりつく。パンがカリカリに焼けているから、いっつも口の内側が負けてしまうのだけど、それでもおいしい。本当にゆったりとした時間が流れていた。ごつごつした掌の中で暖められた空気のように、それは本当だった。自分では脱げなかった靴下がずるずると逃げていく。

 今日はマフラーを買った。しばらくぶりに巻いてみたからか、ちょっと苦しくて、外してはまた付け直して、を何度か繰り返した。四限目の授業を済ませたらそのまま本屋さんでいろんな本を立ち読みした。せかせかなんかしなくていい週末。他の人がせっせとトライアスロンみたいなことをしている間、僕はゆったりと過ごす。明日は街に出て、バスのチケットを買うついでにあれこれ見ていこう。今のうちは、それでいいや。

冬越え

冬越え

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