NIGHT SCRAPS

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はだかのこえ

 夜になると虫の静かな鳴き声が聞こえてくる。時には窓にバタンと当たってきて、ベランダでぴーぴーと鳴くのでかなり気になるけど、彼らの音は夏の夜の風情を感じさせる。僕の住んでいるマンションは本当に静かだから、それしか聞こえてこない。そんな中、これを書いている。

 ツイッターで見かけて、「ひとりぼっち惑星」というアプリをまたインストールした。以前もやってみたのだけど、途中でやめてしまった。「ひとりぼっち惑星」の世界には、ひとが一人もいない。ジンコウチノウたちが争い合い、壊し合う。その部品を使ってアンテナを拡張し、宇宙からのこえを受信する。どうやら、地球にはもう人は住めなくなり、住める星を探していろいろと宙をさまよっているらしい。なんだかこのあたりのストーリーは藤子・F・不二雄さんの「箱舟はいっぱい」という短編漫画に似ているなあと思って嬉しかった。藤子・F・不二雄さんのSF短編には本当に素晴らしいものが多くて、「ヒョンヒョロ」や「間引き」、「ノスタル爺」など、約40年前の作品だとは思えないものばかりだ。

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 ある程度物語を進めていくと、ジンコウチノウの部品を集めれば自由に声を送信したり誰かからの声を受信できるようになる。僕も、昨夜に初めて誰かの声をキャッチした。19歳の女の子。8つ上のバンドマンに恋をして、振り向きもされないと分かっているのに些細なことで嬉しくなったり悲しくなったり。あなたが恋をしているなら、幸せになれますように。そういう内容だった。ツイッターとかで重いため息を吐き出したりしているのかなと思いつつ、きっとそういうコミュニティでも遠慮して言えないことがあるだろう。「匿名」という蓑のおかげで、吐露したいことを自由に言えるのかもしれない。

 今日も、いくつか届いた。文面から察するに、おそらく女性だろう。二年前、腫瘍が七つできたため入院した。無事手術が終わり、退院した後も再発におびえている。先月、同じとき入院していた入院友だちが亡くなったそうだ。あんなに元気そうに笑っていたのに、命ははかないものだ、と書いてあった。「ひとりぼっち惑星」は、声を受け取ることはできてもそれに返事ができない。どうしようもなく、ただ残る重さを感じながら、その言葉を見つめていた。送る側としては、読み手が誰か分からないから、文章に変な着飾りをする必要がなく、思いのままに伝えられる。なんだこりゃ、というものもあるし、頭の中をいっぱいに占拠する声もある。

 僕は、こういう匿名性が好きだ。いちばんその人の無意識が現れるような気がする。独りきりの一人も、大勢の中の一人も、それぞれ好き勝手に声を送信している。今だって。