NIGHT SCRAPS

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雨について

 ジンジャーエールを飲むたびに雨のことを思う。理由はくだらなくって、口の中ではじける炭酸が雨みたいだからだ。洗濯を自分でするようになってからは嫌になったけど、前までは雨が好きだった。体育が中止になって図書室で自習するのも気楽だったし、ざあざあ降りのときは多少大きな声で歌っても構わなかったから嬉しかった。

 雨の歌も好きで、今パッと思いついたのは細野晴臣さんの「恋は桃色」。その中の歌詞「おまえの中で雨が降れば 僕は傘を閉じて濡れていけるかな」がほんとうに大好きだ。傘をそっと差しだすのではなく、一緒に濡れてみようとする。細野さんのあの低音の歌声で歌われたら、靴の中まで染みこむ雨も、濡れて重くなった服も悪くないように思えてくる。男らしさという言葉は好きじゃないけど、「どーん」と効果音をつけたくなるような、この余裕。これはずっと持っていたいなあ。羽海野チカさんの漫画「ハチミツとクローバー」で真山巧というキャラが出てくるのだけど、彼は貯金をしっかりしている。その理由を訊かれたときに、「もし好きな女に何かあった時さ『何も考えないでしばらく休め』って言えるくらいはなんかさ 持ってたいんだよね」と答えるのだけど、この余裕を持っていたい気持ちは、なんとなくわかる。ちなみにこの真山はどこか愛らしくて、片思いをしている年上の女性(この女性の仕事の手伝いを彼はしている)のメールやファックス、書類の中身までなんでもチェックしている、まあ「ストーカー」なんだけど...真山はかっこよく見えちゃう。

 もし自分の中で雨が降ったとき、「雨に唄えば」のあのシーンのように軽やかに歌い上げられるだろうか。ともに濡れてくれる人がいるだろうか。まだ分からない。今はうっすら曇り空。そのときを待とう。そして、とりあえず自分に何かあったときにちゃんと休める余裕を持っておきたい。余裕はきっと、誰かを思いやる上で大事だと思うのだ。

 最近、このマンションに引っ越してきた人がいるみたいだ。新しい環境に緊張したりしてるのだろうか。春の空気はなんか繊細で、きゅっと胸が詰まりそうになる。去年の自分を思い出すからかな。桜の花びらが浮かぶ川面を眺めて歩いていると、「一年」という区切りを考えてしまう。とりあえず、ジンジャーエール買って帰ろう。