NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

夜なき梟

 簡単に夜を越えられるのなら、いつだってそうした。簡単にあちら側へ行けるのなら、同じようにそうした。いつの日かその手段が開発されたのなら、嬉々として迎えに行く。今まで文章の中で愛でてきたすべてを裏切って。今まで育ててきた哲学に墨を塗って。

 私の今までは全部間違いだったのだと、誰かに言われたい。そうなったら最初から、形のない頃からやり直せるのに。今度こそはと決意して、易々と手離したすべて。いまだに空っぽの手のひらと、いつまでも満ちない月。私みたいな人に出会うと嬉しくなったけれど、今では「そんなのやめてくれ」と思う。タダシイ光の方へ歩んでいってね。私はずっと勘違いしていた。育てやすい利口な子だと。でもそのまま歳をとって、何の自主性もない甘ったれた生き物であることに気づいた。空っぽから生まれるものはどうせ空っぽなのかな。それとも自分の努力とか向上心の欠如が悪いのかな。

 殺したくなるくらい笑われたい。風のように通り過ぎないで、自分のことを嗤ってほしい。血がにじむくらい握り拳を作って、黄ばんだ歯を見せてほしい。どうせ誰にも求められない僕だけど、きっと悲劇の中の喜劇役者にはなれる。気持ちのいい道化で、たった一瞬だけでも輝いていられる。

 こうやって言葉を並べているあいだにも、心の網戸から冷たい風が入り込んでくる。招いたつもりはないのにそいつはやって来て、僕があたためた沢山の妄想を乾かしていく。俺にとっては、混沌としたこの社会をフクロウのように森からじっと見つめているぐらいがちょうどよくって、別に俺自身が社会の中に入って何かをしたいわけじゃないのに、夜が来るたびに誰かが俺にそれを強要して拒否しようものなら冷たく朝を連れて来て心がまた死んでいくから本当に本当につらい。

 勝手に作られた命を背負って、生きることの意味を嘘ついて、自分自身もまた性衝動に悩んで、今日も夜になくフクロウ。どこかへ飛んでいくつもりはなくって、ただふいにあそこへ行けるきっかけを求めている。車の流れを見る。五階の窓から町を見下ろす。台所で調理する。お風呂場を掃除する。生活の中に潜む誘惑を、気づかぬふりしてやり過ごす。そして今日の日もさようなら。私は、つばさのないフクロウ。ぼくが、この日本の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。