NIGHT SCRAPS

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リンゴとアルコール

 二日酔いで目覚める。自分のことなど忘れて、馴れない体験にうつつを抜かしたせいだ。大して強いものを飲んだつもりはないけど。何かが吐き出されようと懸命に主張しながら、胸のあたりで引っかかってしまっている。それが余計に気持ち悪い。カーテンを開けると真っ当な光が差し込んできた。急いで閉める。昨夜から台所で眠っている食器を起こしに行く。

 本当は何もする気が起きません。カレンダーは春のままだし、案外それでもいいかと思っているし。このまま床でずっと眠っていても、しばらく誰に気づかれない自信がある。そしてこの部屋いっぱいに毒が満ちたって、そのときにはもう僕の責任は霧になっていて…、くだらない妄想を終わらせてスーパーまで歩いて向かう。

 リンゴを手に取りながら、ホルマリンに漬かった昔の記憶を掬い上げる。夏祭りの騒がしさから抜け出して、友人と神社の石階に腰を下ろした夜。ぬるい風が吹き、ときどき踊り子たちが姿を見せた。さざめきつつ動く町の風景を眺め、僕らは恋を語り合った。まだ青いリンゴのような、幻に近い恋の話。だけど何の恥ずかしげもなく、夜が更けるまで一つ一つ収穫していった。友人はそのあとで多分、艶やかな赤いリンゴの味を知った。柔らかな甘さと、噛むたびにあふれだす幸福を。

   そろそろ思い出を箱に戻さなきゃいけない。光り磨かれたそれを、闇の中に託す。そして、食材をカゴに入れる。また混沌に身をさらし、熱風へと立ち向かい、たまらずゲロを吐く。鎧を脱ぎ、槍を捨て、畳に座る。また馬鹿やろうと缶を開けて口をつける。身体が火照り、少しだけ愉快になる。布団に横になり、一人きりのスポーツをじっくり楽しんで、無気力のまま眠りに落ちる。こんな感じでそのまま朝が来ても、まあいいかなと笑う。リンゴの匂いがするすると窓の隙間からやって来ないか期待しているんだけど。