NIGHT SCRAPS

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KIDS

   家族三人で近所の道を歩く。夏の夕方、特別今日は涼しくて快い。鼠色の空からぱらぱらと小雨も降っていた。歩道橋を渡り、目当ての洋食屋に着くと、僕らは腰を下ろした。外で晩ご飯を食べるのなんて珍しい気がする。僕はオムライスを注文した。ふわふわの卵に、ほかほかの白米。心地いい満腹感。言葉を交わして、ほどよく豊かな午後を味わってお店を出た。夏の宵。町からにじむオレンジの灯り。時どき自転車が通り過ぎていった。部屋の重い扉を開けて中に入ると、途端に眠たくなった。うーん。

   今日もそうだったけれど、お父さんはよく幻想を口にする。旅行がいい例だ。いつかあそこに行こう。笑顔でそう語る。僕とお母さんはもう馴れっこなので、また始まったと受け流す。家族で、どこか他県へ旅行したことなんて無い。だけどお父さんは、宝くじを買ったときや家族でご飯を食べているときなんかにふと旅行について語り出す。それは、冗談なのか、本気なのか。その時々によって違う気もするから、よく分からない。「嘘ばっかり」と二人が笑うのが面白いのかも知れない。お父さんも皺を寄せる。

   そういえば今年、僕は二十歳になった。あんまり実感はない。だらだらとお酒を愉しんでいるだけだ。だんだんと社会というものが侵食しているのを感じているけれど、自分の情けなくてふがいない部分はまだ消えてくれない。夏の夜に名残る微熱みたいに。僕はいつまで、この子供を抱え続けるんだろう。もしもこの先、誰かと結婚していつか子供が産まれるとして、その時にはいなくなっているのかな。僕の親や周りの大人たちを見ていると、なかなか難しいように思う。この家にいる三人の成人は、一方でまだ子供だ。手のかかる、難しい子。

   話は戻るけれど、僕は旅に出かけることよりも、家族とぶらりと近所を歩くことの方が本当は楽しい。靴を脱いで、あくびをしながら羽織っていたシャツをハンガーにかける。家族でテレビを観て、そのあとアイスクリームを口にする。くたびれた身体を湯船に預ける。明かりが消え、眠りにつく。今度は三人でお酒を酌み交わしたりなんか、してみようかな。ちょっと恥ずかしくはあるんだけど。