NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

祭よ

 暑いのに。肌が汗ばむ季節なのに。人はわざわざ町へ繰り出して群れをなす。その濁流はとても強大で、引き返すことは簡単じゃない。肩と肩がぶつかる。他人の湿った肌が触れる。さまざまな匂い入り乱れて、熱気がたちこめる。それでも人々は騒がしさの方へ誘われて踊りをおどる。

 太鼓の音がする。胸の奥まで一気に届いて、心臓マッサージのように繰り返す。幼い頃、母に抱えられながら阿波踊りを観に行った日からこの感覚がなんだか苦手だった。吐き気のような、決して心地よくない振動。どれだけ強靭な肉体を手に入れたとしても敵わない。だんだんと気分が悪くなって、逃げるように本屋へ駆けこんだ。静かで人もまばら、すてきな空間で雑誌なんかを立ち読みしたり、吉田秋生の漫画を手に取ったりした。涼みに来る人もいたけれど、たぶん普段よりも客の数は少なくて、ずいぶん快適だった。

 名残惜しい気持ちで外に出ると、燦燦と日が射していた。人々とすれ違う。浴衣を着た女性、その彼女と腕を絡ませる男性。着飾った女の子、その後ろを歩く父親らしき人。年齢も国籍もごった煮で、全員が祭に巻き込まれている。裏通りを歩いていると、本番を控えた踊り子たちが不安げな表情で休んでいた。遠くの方で、囃子が鳴っているのが聞こえる。

 祭という文化には、どこか神話のような力を感じる。見えない手が人々を活気の中へ連れていき、僕たちの細胞が身体を揺らし、高らかに踊らせる。山の緑が夏の風に揺れるように。暑いのに、人がいっぱいで困るのに、祭は絶対に無くならない。いくらそれが商業化されたものでも、たぶん本質の部分は変わらない。人々が火を囲って踊りをおどっていたであろう頃からずうっと続いてきた野生的な感じ。これがずっと続いていくんだろうなあと、騒がしい町並みを歩きながら考えていた。僕はちょっと遠回りして鉄道に乗って帰ったけれど、夜遅くまで祭は終わらない。浮れ、酔っぱらって、ふらふらで。本当に、阿呆で不可思議な時間だ。