NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

刺青 / TATTOO

 夏は容赦ない。刀を鞘から抜き、せっせと刃を研いでいる。そして歩く人々に向かって一気に刀を振り下ろす。僕の肌は無茶苦茶に傷ついて、傷口から透明な血があふれ出す。からだ中から水分が逃げていく。拭うハンカチは汚れていく。視線はどうしても涼しい場所を探してしまう。大学の図書館はエアコンも扇風機も効いていない。自然と喫茶店へと足が向く。

 夏に斬られたとはっきりと気づくのには、少し時間がかかる。ふっと席に腰を下ろして、何を飲もうかとメニューを見ているときに、額からぽたぽたと流れてくるのに気づく。焦ってタオルで拭く。アイスコーヒーを注文して、畳んだタオルでぎこちなく顔を仰ぎながら店の中を歩く。客は他にいない。お店の人との不穏な時間が流れていた。路面電車が何度か通った。小腹が空いたからジャムトーストも頼んで、それをぺろりと消化した。本当に長いあいだ居座ったと思う。新しいお客が来たのに合わせて、席を立った。

 夏休みとは言っても、今年はほとんど休めなさそうだ。はあ、今日ここへ来たのだってほとんど逃避に近い。嵐の前の休息。本当の心はぼんくらもぼんくらだ。肩の部分に刺青を入れて、誰かと一晩中汗みどろになるときだけそれをひけらかして、昼の光を浴びるときは何食わぬ顔で眼鏡でもかけている、そんな心だ。そうだ、こっそり刺青をいれている人と友達になってみたい。風呂に浸かるタイミングで、その人の小さな赤い薔薇に触れて、なんでいれたの?とか訊いて。ちょっとした秘密を服で隠しているのが面白いと思う。そんな人と海に行って堕落したいけれど。

 夏の空気にまた晒されて、来た道を帰る。黒いシャツが熱を帯びていく。これだけ温度が高いと、服を着ていることすらうざく感じられてしまう。が、健康真面目好青年の僕は法を犯したりしない。大学の駐輪場に止めてきた自転車に乗った。蝉が、路上で死んでいた。切れ味抜群の刃にやられたのか。そそくさと薄暗い部屋に戻って、シャワーを浴びた。ぐだぐだしていたら外が強烈なオレンジ色なのに気がついて、つい写真を取ってしまった。そんな夕景もあっという間に過ぎ去って、奴は刀を鞘に納めた。僕も、朝が来るまで静かに眠ろう。

はあとぶれいく

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