NIGHT SCRAPS

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夜のはらいそ

 晩御飯を早く済ませ、シャワーを軽く浴びて、あとはだらしない恰好で適当に夜を過ごす。ごくごく普通だけど、なんて気持ちがいいんだろうと思う。ベッドに寝そべり、アイスコーヒーをからんからんと愛で、テレビでも観るといい。ときどき難しいことを考えて、分からんなあと戸惑いながらもそれなりの考察を手に入れる。文字を見つめる目が疲れるとそろそろ眠ろうかとテレビを消し、それからスタンドライトに手を伸ばす。

 とある日の夕方、ささやかなご褒美として喫茶店に向かった。空がだんだんと暮れかかるなかで、本を読んだりカレーを食べたりした。一時間ぐらいずうずうしく居座って、そろそろかと席を立った。路面電車が過ぎ去る音さえもちょっとだけ切なく聞こえる時刻だ。コンクリートの階段を下りてそぞろ歩く。宵闇の中に、居酒屋を出る一つの姿を認めた。大学の先生だ。僕が「レイモンド・カーヴァーに似とるなあ」と思っている、温和な性格の先生。たぶん、楽しいお酒でもたしなんで、ほろ酔いで帰宅するのだろう。その姿が妙に光って見えたのだった。

 このあいだ、久しぶりに缶チューハイを買った。アルコール度数3%をちびちび飲むと、それがゆっくりと食道を流れ、身体全体が拒否反応を示し始めた。このまま眠りに落ちたら綿菓子みたいに溶けていくだろうと思った。やっぱり僕は酒に弱いし、酔いで苦しさから逃避する勇気はない。煙草をふかせば喘息が出るはずだし、恋の習慣もずいぶん前に忘れた。

 独りでぶらっと酒場に入って、その瞬間だけの関わり合いを楽しんでみたい気持ちもある。言葉を交わして、その人のことを知ったようなふりして、店を出ればすぐに忘れてしまう。そういう爽やかさが羨ましい。だけど今の僕は、シャツとパンツだけでベッドに寝そべっている。小腹が空けば、甘いものを頬張る。ときどき誰かから電話がかかってくれば(そんなことは滅多にないけれど)くだらない話を散々する。儀礼的な、あの面倒な付き合いもない夜。誰かが酒臭い手でネクタイを外しているあいだに、僕はアザラシのようにぐうたらしているのだ。

URBAN GUITAR SAYONARA

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