NIGHT SCRAPS

夜をつらつら書き連ねるブログ

冥利

 都会に住みたいと思ったことがない。大きな街に住んでいる自分の姿が全く想像つかないし、人が多いとうんざりしてしまう性分だし、とにかく向いていないのだ。もちろん、観たい映画が自分の地域で上映しなかったり、好きなミュージシャンのライブで交通費が嵩んだり、田舎ならではの面倒さもある。でもずっと暮らしていくことを考えると町の空気が肌になじむ。

 ぎゅうぎゅうの地下鉄に乗ったとき、それは確信になった。すし詰めの状態の中、はっと気がついたのは自分の邪悪さだ。「これだけ人がいるんなら、ちょっとぐらい乱暴に押して前に進んだって...」。そういう声が至極真っ当なものに思えてくる。誰よりも先に乗り込んで安心したいこの隙間を縫えば前に進めるぞやっと乗れたあの人は乗れなかったけど仕方ないだろうんそうだ...。薄暗がりの心の内でせわしない独白がつづいた。ああ、満員電車で通勤通学なんて...、ちょっと考えたくもない。

 自分は、長閑なところ以外じゃ息ができないだろう。偉いポーズも、ちゃちな見栄も、肩が凝るばかりだし(まあそうは言ってもしなきゃいけないときもあるわけだ)。友だちはみんな忙しくなって言葉をだんだん交わさなくなって、都会に行った君や知らない街に進んだ彼と何を話せばいいのか分からなくなって...。また一人で僕は本屋に行く。カーブを曲がって、小さな橋を越えて。今日はpanpanyaさんの漫画を買って帰った。家では、ひじきと鶏団子のお味噌汁が待っている。本の中には、つげ義春のようなシュールさとふんわりとした可愛さがあって、紙を捲るたび踊る。

 僕の町を通っている路面電車。もしかしたら、降りずにそのまま乗り続けたら『ねじ式』みたいな世界か、またはトトロがいるような自然豊かな土地に舞い降りるかもしれない。この町のすぐそこで、とびきり変で奇妙な空間が存在していたっておかしくない。panpanyaさんの漫画を読んでるとそんなことを思う。平坦で無機質な町に違和感が入り込んでくる。さあ、休日に大学の図書館へ行ってみる。人はほとんどいなくて、窓辺に座るとジオラマを眺めている気分になる。町の代謝や、怪奇を見つけ出そう。屋根の色や道路のうねりから。

三日月

三日月

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