NIGHT SCRAPS

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言葉はさんかくだから

 火曜日の夜、君から電話がかかってくる。ちょっと待ってからそれに出て、ぎこちない挨拶を交わす。まただらだらといつものように下らない話を紡ぐ。他の人に言ったら情けないと思われるようなことも、何の気兼ねもなく話して、笑う。いつか二人とも時の流れに揉まれて一人きりで老いていったら、結婚しようねなんて言い合う。

 僕は話すのが苦手だ。口を開けて声を発するというのが妙に恥ずかしくて、会釈とかジェスチャーで済ませてしまうことがときどきある。だからこういう場所でのびのびといろんなことを文字にしているわけだけど、文字に直すのはそれはそれで結構面倒だ。映像を文章にするのはむつかしいし、いろんなことが起これば起こるほどそれを整理するチカラが必要になる。面白いことがあって君に伝えようとしたとき、やっぱり電話で喋る方がなんかいい。

 話す前にいろいろ考えていても、いざ話し始めるとそれらが姿を消して「しんどいね」とか「生きにくい...」とかネガティブな常套句がふっと湧き出してくる。それはきっと、かさぶたの下の桃色の肌と同じかもしれない。思考で頭を固めていたって、声を交わすと一番素直で柔らかい部分が出てきてしまう。あと、電話をしているのが夜深くということもあると思う。とろとろの頭でほとんど何も考えずに言葉を吐き出しているから、「しんどい」がまず先に出てくるんだろう。そして朝になっていて、まだ通話中だと気づく。君が学校へ行く姿を想像しながら、また眠りの中に落ちていく。

 去年は洗濯が億劫だったよなと、洗濯物を干しながら考える。今年は暖冬だから、干す指が冷たさでちくちくしない。食器を洗うのだって、去年は修行に似ていたし、水をぬるくして洗っているときもあった。暖冬と言っても、風邪を引いてしまったけれど。君が風邪を引いたと聞いたちょっとあとに病院に行きました。

 いつか君がおすすめしていたのを思い出して、くるりの「言葉はさんかく こころは四角」をこのところよく聴いている。ものすごく淋しい歌。故郷で暮らす両親のことをふと思い出した。帰ったら何を話そうか、暇なときにつらつら考えている。いざ帰ったら全部吹っ飛んでしまうとしても、まあいいか。そのぶんたくさん話せばいいんだ。すっごく下らないやつを、たくさん。