NIGHT SCRAPS

夜をつらつら書き連ねるブログ

エメラルドのように

 いま、Youtubeフジロックを観ている。便利な時代になったなあと思う。マックデマルコの気持ちいい演奏が聞こえる。黄色いシャツに紺のショートパンツという楽な格好で、とても楽しそうに歌っている。生で観れたらまた聴こえ方も違ったろうなと思いつつ、非常に贅沢な時間を送っていると感じる。彼の音楽はときどき、自転車であちこちへ行く時なんかに聴く。風にあたりながら、耳から懐かしい風景が浮かんでくる。輝く緑と、白くて大きな雲。そして無条件に安心する。イギリスのFURや日本のミツメというバンドを聴くと、エメラルドのように透き通って光を放つものを感じる。

 今日は久しぶりに本を買った。カッソン・マッカラーズの『結婚式のメンバー』。村上春樹さんが翻訳している。最初の一ページ目から、まぶしい景色が映りこんでくる。「緑色をした気の触れた夏のできごとで、フランキーはそのとき十二歳だった。その夏、彼女はもう長いあいだ 、どこのメンバーでもなかった。どんなクラブにも属していなかったし、彼女をメンバーと認めるものはこの世界にひとつとしてなかった。フランキーは身の置き場がみつからないまま、怯えを抱きつつあちらの戸口からこちらの戸口へとさまよっていた。六月には木々は明るい緑に輝いていたが、やがて葉は暗みを帯び、街は激しい陽光の下で黒ずんでしぼんでいった」。

 これが最初の一節。さらさらと情景が浮き彫りになる。物語が始まるときの、風が吹くように在る孤独感。初夏の涼しい香りと、反射する陽光。村上春樹さんが訳した日本語で、どんな物語が綴られていくのだろう。それよりも、こうやって本棚の隅から姿を消した作品が、春樹さんや柴田元幸さんなどが掬い上げてくれることが嬉しい。

 「今でも残っている作品=それだけ素晴らしい作品」かは分からない。歴史のレールから外れて土に埋もれても、水で洗えばきらきらと光るものがあると思う。それは、ジョージ・オーウェルの作品がまた多くの人に読み直されたり、レコードがまた売り上げを伸ばしたりするように、ファッションが、ときに過去のもののリバイバルが起こるように。永遠に歌われるかもしれない歌、永遠に読み継がれるかもしれない文学。ふつうの日々に愛されたものがこれからも愛されていく。それだけで少し安心する。

 とりあえず、この休日は家に籠ってフジロックを楽しもうと思う。では、良い休日を。


Mac DeMarco - Chamber of Reflection