NIGHT SCRAPS

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緑の揺れる髪

 祝日は、大学の図書館も閉館している。それでも僕は暇を持て余して大学へ向かった。自転車を駐輪場に止め、そぞろ歩く。図書館の前にはいくつかテーブルがあって、男女が何人か座って雑談をしていた。僕は、日陰のベンチに座って、リュックサックから本を取り出す。ポール・オースターの『幽霊たち』。短いお話だと余計に「いつでも読めるから」と後回しにしがちだけど、それでも読まなければ、と持ってきた。まだ読み終わっていないのであらすじは語れないが、おそらくミステリーだと思う。ページを捲るたびにいろんな予想が浮かんでくる。登場人物の名前はすべて色の名前(ブルー、ブラック...)だけどこれは関係しているのだろうか?これは「孤独」が一つのテーマなのかな?などなど。

 木陰が心地いい。見上げると、日光に照らされて緑の粒が鮮やかに光っている。僕は、日の当たる葉と日の当たらない葉のことを思う。もし自分がこの木の中の一葉だったなら、たぶん日の当たらない方だったろう。うん、そちらを好んだだろう。風が吹くと枝がさらさらと揺れて、そのたびに光の粒も動く。汗をかいているみたいだ。耳をすませると小鳥の啼き声と、かすかに蝉の声が聞こえる。気がつくと時刻は二時を過ぎていて、太陽も動き、僕が座ってた日陰も動いてしまった。なんだかじっとしているのにも飽きてきたから、ぶらぶら歩くことにした。

 大学のふとしたところに、蝉の死体が落ちていたのを見つけた。初夏なのに、もう君は役目を果たしてしまったのか...と空しい気持ちに襲われた。自動販売機でアイスを買う。130円を投入し、桃のアイスを選択する。この自販機は、24時間冷却しているのだろうか。たぶんドリンクを売っているものよりも電気の消費量は多いだろう。しかも年々夏が暑くなってきていて、より電気が必要になっているに違いない。でもアイスの値段はずっと一定だから、アイス業界は大変なんだろうな...と、溶けて垂れてきたアイスを舐めながら考えていた。温暖化が進むなかで、ビジネスはどんな変化が起こっているんだろうと一通り妄想してみたけど、結局よくわからなくなった。

 うららかな日の差す中、自転車でうろうろしていると、何匹かのカラスが公園で休んでいた。黒は太陽を吸収しやすい色だから、きっとものすごく暑いだろうな。でも少しずつ暑さに耐性ができてきたら、生存競争でヒトよりも有利になるかもしれない。そんなことを考えながら、ツタヤでSMAPのアルバム『ス』を買って帰った。部屋でそれを流しながら洗濯をする。ベランダから見える緑。初夏の風に吹かれるのは何回目なんだろう。たぶん僕がこのマンションを出たあとも揺れ続けるんだろう。部屋に戻ると、「セロリ」が静かに流れていた。 

セロリ

セロリ

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