NIGHT SCRAPS

life, solitude, words

夜はうつくしい

 本を予約するなんていつぶりだろう。本屋さんへ行って、川上未映子さんの新刊『ウィステリアと三人の女たち』を予約した。

 読みたい本がぼんやりしていて、どれを選ぼうか悩むとき、ときどき使う指標がある。”川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』のような小説”だ。今日新刊を予約したのだって、この小説の雰囲気に近そうだなあというそんな野暮な理由からだった。一度読んだだけで、恋するみたいに大好きになった。

 主人公は校閲をしている女性、入江冬子。自分に自信がなく、他人と会話するのだって苦手だ。それが理由で会社もやめ、フリーランスで活動するようになる。途中からお酒を飲んでほんのり酔った状態で人と接することが増えるが、ある日勇気を出して訪れたカルチャーセンターで彼女はうっかり吐いてしまう。しかしそれがきっかけで、高校で物理を教えているという男性、三束さんと出会う...。

 この小説は「夜」と「光」がテーマになっていると思う。僕にとって三束さんは、入江さんの素の部分を引き出してあげる存在だ。それはきっと真っ暗な夜空から星の光を探すようなもので、町の光のせいで見つけづらいかもしれないけど、たしかに輝くものはあるのだ。たとえ三束さんに嘘があったとしても、三束さんが見つけ出した光に偽りはない。

 光ってすごく不思議なもんだ。僕らは闇があるからこそ光を意識できる。闇がなかったら、光はどこに行くんだろう。なんだかそういう「ある」とか「ない」とかいうのは答えにきりがないから好きだ。夜が美しいのは、何にもないからかもしれない。何にもないと、何でもできる。ネオンの光でいっぱいにできるし、暗い中ぐっすり眠ることもできる。ある意味、何にもないのは何でもあるということかもしれない。

 お気に入りのシーンは、初めて入江さんと三束さんが喫茶店で会った後、駅でじゃあさようならという時に、入江さんが三束さんを呼び止めるところだ。彼女は慣れない感じで、でも呼び止めた熱のまま「光のことで、わたし、それが物理とどれくらい関係あるのか全然わからないんですけど、その、光をみるのがすきで」(p.122)と話す。これに、つい微笑んでしまう。自分のまとまらない気持ちを塊のまま相手に聞いてもらったときのそわそわ感。それを受け取ってくれた時のどきどき感。心だけが別の生き物みたいにはしゃぎだす、あの感じ。

 この小説には「世の女性」というか、「一般的な女性像」というのが出てきて、ときどき入江さんは考えるのだけど、ふいに見上げた夜空に星を見つけて、たとえそれが小さなものでも変わらず「きれいだなあ」と思う、そのことを大事にしていきたいのです。

 

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)