NIGHT SCRAPS

今 https://note.com/star_gazer_

オセロ・ゲーム

 帰省を終えた日。高速バスにまた揺られ、そこからJRに乗って自分が住むマンションへと帰った。途中、身体はくたくたながら空腹だったのでスーパーに寄った。時計を見るともう午後七時をまわっている。夜の中で煌々と営むスーパー。適当にいろいろ詰め込んで、レジに向かった。店員さんの顔はあんまり見ないけれど、ふと視線を移すと、同じ大学の同じ学部の同じ学科の人だった。授業でも何回も見たことがあるし、何ならグループワークのためにラインも交換している。だけど、中途半端なのだ。

 ときどき、全然知らない人の方がすらすら喋れることがある。向こうも僕のことを何も知らず、おそらくこれからもずっと知ることはないだろうと確信できると、何の心配もなく会話を交わせる。だけどなんというか、「ちょっと知ってる」とか「見たことある」人の場合、そしてその人とこれからも(薄っすらと)関わるだろうなというのが分かると、もごもごしてしまう。

 その分ネットは楽だなあと思う。非道いことをやらかさない限り、自分のことをあんまり知られず、自由になんでも言える。普通だったら発言に乗っかるようないろんなバイアスが、ほぼ無重力になる。だからペチャクチャ呟いてばかりいたら、この間の成人式で「ツイッター見てるよ」と言われて心が赤面した。まあいいや。これは僕だ!という感じで、相も変わらずつぶやいている。

 知り合い、言葉を交わし、仲良くなって、いつか気まずく面倒な関係になる。そうなると、高校の同窓会とか出れないし、下手をすると街も歩くのも嫌になる。それはどこか、オセロをやっているときに置く場所が無くなったときと似ている。どんどんゲームを進めて行って、するとどんどん置くところが減って、「ああ、ここに置いちゃだめだ...」と分かりながら石を打つ。波を打つように盤が相手の石の色に変わっていく。そういう気まずさを、人と知り合うたびに味わっている気がする。

 それでもやっぱり、人と交わすのをやめるわけにはいかないのだ。「人は一人で生きていける」なんて、そんな甘い話ないのだから。僕らは博打をうつように人と言葉を交わし、時には身体を交わす。この人とずっと付き合っていけるか分からずに、それでも愉しさに駆られて時間を費やすのだ。僕が白い石を置いて、相手が黒い石を置く。外から青い石が飛んできて、盤を支配してしまうときもある。またやり直して、一緒にオセロをしてくれる人を探す。全然そんなそぶりも見せず、人を寄せ付けないふりをしながら(単に恥ずかしいだけだ)。

メランコリーキッチン

メランコリーキッチン

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥250
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ふくろう通信 その四

 去年は、ずいぶん多くの機会で「平成最後の」という前置きを聞いた。僕は、自分が平成生まれであることを特に意識したことはなかったけれど、そのうち「おれら平成生まれはなあ...」なんて能書きを垂れるのだろうか。「平成」という顔も知らない誰かにぞっとしながら、今日も折坂悠太さんの『平成』というアルバムを聴いていた。個人的には、平成というより昭和っぽい雰囲気だな...と思ってしまうのだけど、それはそうとして心地いい。一曲目の「坂道」がとてもお気に入りだ。

 ずいぶん身近な匂いがする。太陽を燦燦と浴びた布団の匂いや、髪の毛のにおい、雨の日に焚いたお風呂の湯気のそれ。生活の中でふと鼻の奥へ入り込んでくる景色のいくつかが、音楽を聴いているとなんとなく感ぜられる。

坂道

坂道

  • 折坂悠太
  • J-Pop
  • ¥250
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 少し前から、ヒップホップを意識して聞いている。昔は、途中でラップが入った途端ぽかんとしていたけど、今はあんまり気にならなくなった。90年代のヒップホップの独特の泥臭さとか土臭さが好きで、まだ今のエミネムとかドレイクとかはあんまり追えていない。まだむつかしいわ、ヒップホップ。同じように、ジャズもいくつか聞いていて、いいなあと思うものと「ようわからん!」と髪をかくようなものがあるけど、チェット・ベイカ―とかセロニアス・モンクをとりあえず好いている。

 だからグール―の『Jazzmatazz』を聴いたときは、いいとこどりだなあと思った。ちょうどいい感じ...フュージョンの良さだなあ。「ドナルド・バードロニー・スミスといったジャズのレジェンドたちとセッションしたプロジェクト...」と、『POPEYE』で紹介されていたけど、僕は彼等のことを知らない。だけど、ジャズとヒップホップをここまでいい感じに合わせるのはすごいなあ。''Loungin’''や''Trust Me''を聴いてほしい。

Trust Me

Trust Me

  • グールー
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250
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 今回のふくろう通信はここまで。最近、気持ちいい音の作品が増えてる気がする。新しい音楽の旗手が現れて、それに刺激を受けてどんどんと音楽がよりよくなっている感じがして、僕は嬉しいしぞくぞくする。これからどうなるんだろうね。

Love It If We Made It

Love It If We Made It

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夜が来るたびに…

 2018年の12月27日、午前10時発のバスに揺られながら、窓の外を見ていた。田舎の山を切り取って高速道路を造ったものだから、目に映るものは大して重要ではないし退屈でしかない。それでも、葉を落とした木の枝が肺血管に見えたり、重たいグレーの雲から時々光が差し、これが晴れ間というやつなのかと気づいたり、全く何もないという訳じゃない。道が急にガタガタし始め、ああ故郷に入ったんだと分かってしまう。それにしても、私たちの祖先はこの広大な山並みをのそのそと歩いて暮らしを拡げてきたんだと思うと、少し感慨深い。まあ要するに、約二時間のバス旅はそんなことを考えるぐらい暇なのだ。

 大晦日、そして年越しを一人で迎えるのはずいぶん物悲しい。だから帰省したのも理由の一つだ。だけど今回は、ちょっと大きな用事があった。気づくと成人式を迎える歳になっていた。このペースでいくと40代もかなりあっという間なのだろうな。はあ。

 いつもの年末。ストーブで餅を焼き、善哉を食べ、お雑煮でまた餅を食べる。どん兵衛の天ぷらそばをすすり、ガキ使で大笑い、紅白で歌を口ずさむ。そうしているうちに年が変わって、鐘の音が遠くから聞こえだす。ゴーン…ゴーン…。今回の帰省はあんまり長い日程じゃなく、10日ぐらいでまた一人暮らしに戻る。年末から年明け、とっても時間の流れが急で、ついこの間ガキ使で笑ってたのになあという気分になる。

 そして今日、成人式を済ませてきた。小学校の卒業式以来会っていなかった人もいたし、ツイッターでは話すけど会うのは久しぶりという人もいた。まあまあの人が僕のことを覚えてくれてて、懐かしいノリでぐだぐだお喋りできたから嬉しかった。小学六年生のときに担任をしてくれた先生もあの頃とお変わりなくて、なんだか嬉しかったなあ。懐かしい人と会うと、また別の会いたい人も思い出して、元気にしてるか気になる。懐かしさの連鎖はちょっぴり切ない気分にさせる。あのときスマホを持っていたらなあなんて考えるけれど、持っていなかったからこそ未だに思い続けているのかもしれないとも考える。

 夜が来て、そして明けるたびに、また一人に戻るのかと呆れる。一人の時間は好きだけど、嫌いだ。みんな、どうやって人脈を手にしてるんだろう。お母さんに聞いても答えは帰ってこなかった。はあ、突然話しかけられたアメリカ人と意気投合して、ご飯奢られたり服を買ってくれたり仕事を勧めてくれたりしないかな。しないよな。自分が想像しているよりも、ずいぶん日々は地味なのだ。

Keep Tryin'

Keep Tryin'

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れんこんみたいに

 好きなことを仕事にするのは大変だろうと思う。ミュージシャンならば、いろんな曲を知っていないと「へえ、こんな有名な曲も知らないんですか、僕も知ってるのに」という音楽通からの皮肉を食らってしまう。映画評論家なら、「ええっ、あの名作をご存じでない?」と驚かれて、汗だくで困惑するだろう。だから別に好きでもないことを仕事にした方が、「嫌ならまあ辞めればいいか」と楽に考えられる気がする。

 朝起きて、寝起きのまま鏡を覗くと、とんでもない面が目の前に現れる。うわあ。嫌だなあと思いながら顔を洗い、ふたたび覗いてやっと人の顔をしていると思える。自分の顔や、身体のあちらこちらに不満がある。でもまあしょうがないかあと半ばあきらめている。あきらめて、好きな服を着る。その気のままで街に出る。

 気に入らないところや欠けたところは、ずっとついてくるのだろう。ものすごく好きだった人の名前をすぐに思い出せなくて自分の記憶力に呆れたり、使った食器を洗うのが面倒でしばらくそのまま置いてしまったりする。でもそんなことでいちいち「ああ、自分ってほんとばかでだめでくずd...」なんて考えるのも結構しんどくなってきた。れんこんだって穴が開いているのに。穴がないれんこんなんて、誰があこがれるんだろう?穴がないと、おせちにだって入れないじゃないか。

 れんこんの筑前煮が食べたいなあ。あと、だしのしゅんだれんこんの天ぷらは、とってもおいしい。さくさくが口の中で広がって、ああ幸せだなあと思う。自分が作る料理はいつも味が似たり寄ったりで、しかも天ぷらなんて手がこんでいて作る気が起きないから、早く帰省してお母さんに頼みたいな。僕の冬休みも近い。

 週末、気づくと君からの電話を待っている。ふとした静寂に敏感になって、ちらりとスマホを見てしまう。ただの他人だったのに、不思議なものだなあと時々思う。僕のれんこんの穴は、君のとよく似ている。自分が話す自分の醜さとか未熟さに(もしかしたら演技かもしれないけど)うんうんと頷いてくれるのは、奇妙だけど嬉しい。なんというか、れんこんの穴を味わえるのは、もしかしたら人間だけかもしれない。だからまあいろんなことに悩まなくていいじゃないですか、僕も君も。

We Can Work It Out

We Can Work It Out

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ぽこぽこと、思考する(10)

・ものすごく怒りにまかせて行動して、知り合いと別れ、そうして時間が経った。不思議と「なんであのときの自分はあんなに腹を立てていたんだろう」という思いが頭に浮かぶ。怒りはずいぶん便利で、怒った自分のテンションはすいすい色んなことを動かす。でも熱からふっと冷めたとき、全然進みたくない方向に進んでいるのに気づく。しかし、もうその友人とは会う用事がない。昔は特に用事がなくても集まってコーヒーとか飲んでいたのに、離れ離れになるともうそれができない。どんどん遠くなる。

・そんな感じで、クリスマスは一人で過ごす。大学では一人も友達がいない。いや...、言い訳ではないけど「この人と友達になりたい!」という直感が働かない。友達になりたい!という人になら、ちょっと無理してでも声をかけたりラインを交換したりするのに。そういうオーラを出してる人が全然いない。もしかして、大学デビューして消してしまったのだろうか。うーん。

・やっぱりグループワークと言うのが苦手だ。「授業外では話し合いの時間は設けないのでそれぞれ勝手に色々してください」みたいな本当に最悪なパターンにぶち当たってしまい、もう嫌な気分になっている。ラインを交換してグループにも参加したけど、別に今のところ何も起こっていない。ああ、グループの人は全員知らない人だった。誰が誰かもわからないから教室でうろうろしていたら名前を呼ばれて、振り向いたらニコニコした人が立っていた。

・一つも面白くないのに笑えるのも一つの才能の一つだと思う。ふっと真顔になる瞬間を想像すると怖くなる。完璧そうな笑顔を自由自在に作れたら、きっと人づきあいもふわりとうまくいくんだろう。でも絶対自分には無理だと思う。慣れない場所だと顔が硬直する。言葉も不自然になる。知らない人と少しでも打ち解けたふりができるのはかなりいいなあと思う。

・ネガティブなことはあんまり書かないでおきたいけど、たまにはいいかな。こういうとき、別に有名人じゃなくてよかったなと感じる。大して心配も干渉もされない感じ。そんな中で自由にぶつぶつ言える。優しい社会。

它会消失

它会消失

  • 長谷川白紙
  • J-Pop
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まとめ(6)

 まとめです。まとめは、自分のなかでは「ベストアルバム」って感覚ですが、あんまり書けてないのでほとんどおさらいって感じです。それでも全部お気に入りです。

 1.アカネ

 今も夕方が一番好きです。青と赤が混じる瞬間の切なさと美しさ。

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2.いとしき孤独

 またお店にお邪魔して、カレーとコーヒーを頂きたい。漫画をぺらぺら捲りながら、ジャズに耳を傾けながら。

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3.エス・オー・エス

 しんどいときにはついつい手が伸びて、甘いものを摂取してしまいます。つらいつらいと言いながらお菓子を食べてるのはずいぶん滑稽だけど。

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4.そうそう天使は来ない

 ドラマみたいになんでもうまくいくわけじゃない。それでも地味に淡々と生活を続けていかなくちゃいけない。

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5.愛すべき無駄

 無駄をせっせと汗かいて作っている人たちはものすごくまぶしいのだ。

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6.ラブリー

 最近は「ラブリー」というより「痛快ウキウキ通り」の季節。長い長いアラビアンライト。

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7.言葉はさんかくだから

 このあいだも長いあいだ君と話して、気づいたら朝だった。「起きた?」「今起きた」と話してそのまま二人とも二度寝した。


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8.好き part.3

 大学の先生で、今のところこの先生が一番好きだ。順序とかつけちゃいけないんだろうけど、とにかく愛おしい。

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9. 夜に鉄道に乗るように

 銀河鉄道の夜みたいな題名つけたいなあと思ったから、お風呂に浸かることを無理やり鉄道の座席に座ることとくっつけました。
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10.間違えたまま

 それぞれちょっとずつ間違えているから、ちょっとずつ誰かを必要としているのに、どうして完璧を目指しているんだろう。
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間違えたまま

 大学からの帰り道、小学生とすれ違うことがよくある。青い空からふわりと夕空が溶け出す頃だ。ランドセルを背負った彼らが鬼ごっこをしたり駆けっこをしている。その道は幾分狭いから、ときどき車がつっかえている。見てるこっちは危ないなあと思うけれど、彼らはほとんど本能で遊んでいる。一人一人が家に帰るまでただただ走る、それを何日も何日も繰り返す。

 軍隊のように繰り出す彼らを見て、これからどれだけ間違っていくんだろうと考える。それは決して、減点されるミスではなく、加点されるべきミスなんだけど。うーん、なんて言えばいいんだろう。決して道徳的に外れた間違いのことではなくって。初めて知る情報や知識に浮かされて、「迷惑」とかそんな概念も分からずにしてしまう間違い。誰もが一度は通る道の一つだ。ふと振り返ったときに、甘くて酸っぱい味がほどけるような間違い。...言葉であんまり伝わらないなあ。

 自分を見つめ直すと、ふざけた記憶が箱から飛び出す。あんまり馬鹿馬鹿しいから書き出さないけれど、その中には人を傷つけたり怒らせたり泣かせた過去も含まれている。誰かが笑っているのに調子づいて、法定速度を軽く超えるぐらいアクセルを踏んで、後悔という崖にたどりついたこと。誰かが自分のしていることで笑っているという初めての現象に浮ついたのだ。これはきっと、今の自分も危うい。つまり、今も調子に乗りやすい。

 自分で認識できる間違いは幾つかあって、まだ見えていないものもきっとあるのだと思う。たぶんそれを指摘されたら景色がぐわりと変わるだろう。今まで自分が普通だと思っていたものが否定されると、その歪みはずいぶん長いあいだ残る。

 間違いの種類にもよるけれど、間違えた人を見ると愛しい。「ばかだなあ」と嗤っているわけじゃなく、武骨さとか不器用さが愛おしいのだ。植木等さんが満開の笑顔で「分っちゃいるけどやめられねえ」と歌っている、あの感じだ。そうそう、「ハイそれまでヨ」で「フザケヤガッテ コノヤロー」と高らかに歌う感じ。あの愛おしい間違いが見ていて楽しくなる。最近インドの動画を見るのが好きなのだけど、鍋つかみで皿を拭いたり、明らかに前に調理した残りだろうなあという残骸があったり、日本人の感覚ではツッコミどころ満載で、それでもインドの人々の緩さとか、まったりした陽気さがとってもいい。

サピエンス

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POP VIRUS (CD)(通常盤)(特典なし)

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