NIGHT SCRAPS

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ぽこぽこと、思考する(7)

・褒められるのにあんまり慣れていないからか、自分の文章に有難い言葉を頂くと照れてしまう。ネットにぽんと出しているものだから実際に読まれているという感触はあんまりなくって、「ああ、本当に読んでる人がいるんだ...」と結構驚く。音楽やアニメーションは短い時間で人を惹きつけることができるけれど、文章はなかなかむつかしい。心に長く残るためにはきっと、導入からオチまでつけなければならない。そこまで読んでくれる人を想像すると、少しぞっとする。

・この間行ったお店の人は、かなり静かな人だった。でもツイッターでは辛らつなことを割とつぶやいていて、その部分も面白くて好きになった。物静かな体の中で、混沌とした思考が渦を巻いている。たぶんお酒の飲んだらべらべらと喋りだすタイプなのだろうな。

・僕はずうっと一人で暮らし続けるのだろうか。そして今のところ、別にそれでもいいかなと思ってしまっている。二日連続で同じ鍋を食べても誰にも笑われない。僕が肌感覚で分かっていることをわざわざ言葉にし直す必要もない。文章を書くのはすごく好きだけど、「これじゃ分からないかもなあ...」と思うことはさほどない。分からなければ次のを読んでくれればいいから。でも一対一のコミュニケーションだときちんとそれが共有されていないといけない。むつかしい。

・注文していたモリッシーのインタビュー集が届いた。すごく分厚くてびっくりしたけど、かなり興味深い。あ、そういえば、僕はゼミの研究でモリッシーを取り上げることにした。そのことを先生が旦那さん(イギリス出身らしい)に話したら興味を持ってくれたみたいだ。これからちゃんと進めることができるか分からないけれど、大学近くの喫茶店でお茶しながら考えていこう。

 

※「ぽこぽこと、思考する」というカテゴリ、なんだこれ。

Ask

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いとしき孤独

 正午。コンクリートの階段を上り、扉を開けた。お店の人が「いらっしゃい」と静かな声で言い、僕はどこに座ろうかとせかせかと視線を動かす。レコードが流れていて、それがはっぴいえんどの音楽だとすぐに分かった。「ゆでめん」だ。ふっと席に腰かけて、お店を囲うように置かれている本棚をじっと眺めてみる。そうしているうちにお店の人がやって来て、お水をくれる。僕はレタスとトマトのサンドイッチとアイスコーヒーを注文する。

 だんだんとこの空間に慣れてきて、自由に動けるようになってきた。席を移動して、本を手に取ってみる。ゴダールの映画に関するものがあるかと思ったら、バナナマンの本もある。フーファイターズのデイヴ・グロールの特集をしている雑誌のすぐ近くに、ジャズ喫茶についての本が佇んでいる。はっぴいえんどのレコードが止まり、静寂が顔を出す。物静かな男性が新しいレコードに替える。キャノンボール・アダレイの『Somethin' Else』。僕は本棚の隅でポール・オースターの『孤独の発明』があるのを見つけて、手に取る。

 サンドイッチをかじる。パンのぱりぱりとした音と、トマトケチャップの風味。コーヒーの苦み。そして本を読んでいると、路面電車が通ってがたがたと空気が震える。『孤独の発明』はいつか読んでみたい作品だったのだけど、かなり面白かった。彼の父にずいぶん惹きこまれていった。

 客は僕以外に、大学教師っぽい人や、女子大生、60代ぐらいの女性がいた。彼らの会話はほとんど聞き取れなかった。『Somethin' Else』が二回流れ、そして終わり、また沈黙。今度はソニー・ロリンズの『Saxphone Colossus』だ(ジャケットは見たことがあったけど、名前は知らなくて後で調べた)。芳醇な空気が満ちていた。僕はただページを捲り、縦に流れる言葉を追っていく。僕より後に来た女性が会計を済ませているのに気づいて、本をぱたんと閉じた。本棚にそれを戻し、僕も会計をした。「ごちそうさまでした」をちゃんと言って、外に出た。

 寒い季節になってきたから、今日はセーターを着ていった。父からもらった、ピア・スポーツのものだ。ガラスに写る自分の姿をちらりと見て「やっぱりこの服かっこいいな」と思ったりした。それからApple Musicで『Somethin' Else』を調べてちょっと聞いてみた。'Love For Sale'という曲がお気に入りかなあ。とにかくいいお店だった。また行こ。

あやか市の動物園

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歓びの種

 学祭の期間だからか、図書館が開いていなかった。作業しようと思っていた自分は幻滅して、いつものように自転車でぶらぶらすることにした。ミスタードーナツでオールドファッションをかじり、コーヒーをお代わりしながら、少し作業を進めた。一時間ぐらいでそこを出て、またぶらりと本屋を訪れた。別に探していた本や雑誌はなかった。しかし、なぜか足は「哲学」の分野へ伸びていって、アランという人のエッセイを手にしていた。

 アランの『幸福論』、どうして今まで知らなかったんだろう。それが不思議なくらい、彼の文章はきれいだった。景色が浮かぶ言葉の中で、彼の考えが呼吸をしている。自分が生まれる前に亡くなった彼の鼓動が、ページをめくる指先で感じられる。『幸福論』はいろんな出版社から出されているようだけど、中央公論新社から出ていたものはほんとよかったなあ。

 ふと動画を漁っていたら、タモリさんが話しているものを見つけた。タモリさんは、魂のゼロ位置の話をしていた。魂というのはもともと自由で不安なものだ、と。だから人は、職業や性別、年齢といった事柄に魂を置くことで安心する。話は変わるけれど、ヨーロッパではかなり階級というのが大事にされている。自分がどの階級に生まれたのか(労働者階級か中流か、それとも上流か)というのも、魂の位置と関係あるのかもしれない。

 人はあまりにも他律的な生き物だ。洗濯をする主夫は雨に苛立ち、病気を患った人はそのことにすいぶん病む。アランはかなり楽観的にこう言う。「不幸は不幸しか呼ばないんだから、笑いましょうよ、楽しもうよ」。彼の例えでいいなあと思ったのは、長い長い列車の旅だ。何時間もかかる旅を想像してほしい。乗客の中には、「早く着かないのか」と貧乏ゆすりを始める人もいる。きっとそこにアランがいたら、「まあまあ、外を御覧なさいよ。空と大地が移り変わっているのが見えるでしょう」と言っただろう。

 大学の図書館が閉まっていたのは、もしかしたらアランに出会うためだったのかもしれない。オノヨーコさんの言葉で「不幸に見せかけた幸運」というのがあって、僕はこれをたびたび思い出す。不幸に見えても、結果的にそれは幸運かもしれない。なんて楽観的で、もっともリアルな考えか。

 これは土曜日のお話。今日はゼミに関するちょっとした仕事をしてきたから、ちょっと疲れた。明日は、先生が教えてくれた喫茶店に行くんだー。ジャズのレコードが流れ、古本がたくさん置いてあるらしい。野菜のサンドイッチとジンジャーエールを頼もうかな。楽しみをふっと植え付けてくれる人は、本当に有難い。

歓びの種

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アカネ

 頭がずきずきと痛む中、僕は食材でいっぱいのビニール袋を持ってスーパーを出た。急に気温がどっと低くなったから身体の調子が狂ったのか、それとも授業でむつかしいことばかりやっているからそれについて行けずに脳がパンクしたのか。どちらにせよ頭に棘が刺さっている。

 夕暮れというのは本当に面白いもので、ふと空を見ると夕焼けに染まった雲が鮭の切り身みたいにぼてっと浮かんでいる。またある時には、桃の薄皮みたいにほのかに香っている。えぐれた傷あとに見えるときもある。そういうのをいちいち考えながら、やきとり屋の煙や鬼ごっこする子どもたちを通り過ぎていった。スピッツを聴いていると、長い赤信号もあんまり気にならない。

 最近、「人にしたことは自分に帰ってくる」ということをよく考えている。自分が捨てたゴミは、いつか自分が拾わなきゃいけなくなる。誰かを追い出すことは、自分が追い出され得ることと同じこと。だから何だと言われたら大したことはないけど、最近よく見る(いや、歴史的によく見られる)排他的な流れは、いつか大きなものとして帰ってくるんだろうなと思う。静かに。

 帰って、生姜たっぷりの鍋を食べ、温かいお風呂に浸かり、ぐっすり眠ったら頭のずきずきも大したものじゃなくなっていた。お菓子を食べながらパソコンを起動して、夜のドラマをぼーっと眺めた。やらないといけないことはまだあるけど、まああんまり考えないようにしよう。日曜日にゼミの関係で原稿を読まないといけないけど、あんまり考えないようにしよう...。

 そういえば、父親が仕事を変えたらしい。地味な肉体労働らしい。もういい歳なのに、いまだに身体に無理言わせて働いている。父のことを考えると、自動的に「自分は...」と思考が流れる。自分も60を過ぎても汗かいて働いているんだろうか。家族なんて責任を背負いこめるのだろうか。分からないぶん、不安ばかりが増殖する。不安だからいろんな商売がまかり通ってるんだろうし(占いとか風水とか宗教とか)、それは当然なんだろうけど。

 モラトリアムは、「自分が誰にも必要とされない」と痛感する期間だと思う。自分の意見が甘っちょろいものだと気づき、自分の手札の少なさに汗が噴き出すものだし。ふと見上げた夕空がきれいすぎて、でも帰ってきたら部屋の汚さに泣きたくなるし。そう簡単に、かんぺきな自分にはなれはしない。簡単に手に入れたものは、簡単にこぼれていくものだと思うから。''Easy come, easy go''というやつだ。道は長い。はあ、甘えたい!

アカネ

アカネ

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ぽこぽこと、思考する(6)

・また夜が来た。暇だから、好きな絵師さんがライブ配信しているのを見ている。別に喋るわけでもなく淡々と絵を描いている放送だ(五時間以上も黙々と作業をしているらしくって、なんて地味なんだろうと思った)。一つのコマにすごい時間を使っている。影の濃淡に、顔のパーツのバランス。デジタルだとそういうのを簡単に修正できるらしいから、こだわろうと思えばいくらでも時間を費やすことができる。でも世の中には、誰の目にも留まらない作品がたくさんある。何時間も使ったものでも。

 「泳ぐ魚のように」という記事は個人的にお気に入りではあるのだけど、さらさらとネットの海を流れていった。これは以前どこかで書いたことだが、ごくごく普通のことにワクワクとか楽しさを見いだせたらとても嬉しい。だって、みんなが素通りしているものを僕だけがきらきらした目で見ているわけだから。路面電車が魚が泳いでいるように見えたのも、そうだ。

・初めてレディオヘッドの『The Bends』を全曲通して聞いたかもしれない。今まで、途中で違うのに変えちゃったり眠くなったやめたりしたけど、今日は絵師さんの配信を見ながら「このアルバム、結構いいかも」と思っている。眠たくなるし精神的に風邪を引きそうになるのは変わりない。それでも何回も聴いていったら愛着が湧くような作品であるような気がした。まだ一回目だけど。

 高校の友達に借りた宇宙の本をぺらぺら捲っている。その人とは疎遠になって返すことはできない(お父さんの本って言ってけど大丈夫かな)。こういう壮大な話をされると、いろんなことがどうでもよく思えてくるからいい。地球ができて推定46億年。人がほとんど不自由なく暮らせているのがすごく不思議に思う。突然マントルからマグマが溢れ出たらどうなるんだろう。...考えないようにしよう。

 ※(今日はリンクをうまく使えたから内容がどうとかはまあいいか...。)

キラーチューン

 一人暮らしを始めて一年半、お金が入ったらすぐにシャンプーやティッシュなどの生活必需品を買うくせができた。月末に無くなっても不安になることはないからだ。それから、光熱費や電気代のだいたいの目安を考えて「食費はこれぐらいかな、じゃあ自由に使えるのはこれくらい」と決める。それでも一か月をやりくりするのはむつかしい。急にイヤホンの調子が悪くなったり靴下がびろびろになったり、欲しいものが突然現れたりする。

 なんとか今月も乗り越えることができて、今日は久しぶりに街に出て、あれこれ見に行った。グーグルマップで古着屋さんを調べて、行けるところをしらみつぶしに訪れた。入るのに勇気がいるような場所も、ワクワクが勝って足を踏み入れた。古着なのに一万円以上するのがザラにあって、何も買わず出てしまった(それでも入れたことの達成感のほうが強い)。服を買いに外に出たのに、唯一買ったのは古本屋で手に入れたオアシスのギャラガー兄弟に関する本だ。紙に包まれた本。本屋さんで買うとこうやって紙で包んでくれるから好きだ。

 路地を歩いていると、お店がびっしり詰まっていて(しかも一目見ただけではよく分からないところばかりで)本当に幸せだった。裏路地にこっそりと佇む映画館、アルバイトを募集してる喫茶店、靴を修理するお店、潰れてしまったヴィレッジヴァンガード。大きな通りには親子やカップルの姿が見え、少し歩くと裏道で煙草を吸う男の人がいる。その景色を、僕が縫っていく。

 帰るために路面電車に乗ったのだけど、ふたりの女性がやけに印象に残った。一人は、隣に座った女子高生。背中を曲げ、熱心に上橋菜穂子さんの『獣の奏者』シリーズを読んでいる姿がまぶしかった。もう一人は、三十代ぐらいの女性。上はベージュ色のシンプルなシャツだったけど、下は真っ赤で派手な柄のロングスカートだった。すごくオシャレで、戦いに向かう戦士の武勇のようでもあってかっこよかった。

 大学前で降りた後も、自転車に乗ってぶらぶらしていたら大きな公園を見つけたり、ドラッグストアでシャンプーや冷凍食品なんかをまとめ買いした。もうそのときには黄昏で、昼と夜の空の境が紫色の帯になっていた。身体はくたくたで、靴でぎゅうぎゅうになっていた足はじんじんと痺れていた。幸福的な疲労。今日はめんどくさいから晩御飯をレトルトカレーで済ませた。まあこんな日があってもいい。「贅沢は味方」。

キラーチューン

キラーチューン

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まとめ(4)

 お気に入りのをまとめました。読んだことあるものも、まだないものも、ぜひ。

1.耽美なる

 エロ事師たちについて

r46abfcfd77x7me05se181.hatenablog.com

2.ずっと眠っていたいんだ

 モリッシーは僕の永遠のアイドル。たぶん。

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3.トゥオブアス

 友達と長電話したときの話。またしたいなあ。

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4.POKKA POKKA

 商店街を音楽を聴きながら散歩していると、色々考えるのだ。

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5.怒り

 たまにつぶやく汚い感情。ご開陳。

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6.はだかのこえ

 匿名の声。匿名だからこその声。

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7.キッズ・アー・オールライト

 結局このときにやると決めたことも、三日坊主で辞めました。

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8.フェルマータ

 真夜中にラジオを聞きながら。

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9.田舎の生活

 疲れた夜に、井戸の底でスピッツを味わう。

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10.ふくろう通信 その一

 ここ最近聴いている音楽のメモ的なもの。
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